エコ洗剤は無意味!それよりは量を抑えたい。

海の環境を守りたい。そういう思いはヨットマンには共通だ。
船上で使う台所洗剤。使わないのが一番良い。実際に一切使わないで日本一周したとおっしゃる強者もおられる。しかし、皿が少々べとべとするぐらいは辛抱しろと言われても、それはご勘弁だ。
そこで、少しでもエコな洗剤が無いかと考えるわけだが、世間でエコを売り物にしている洗剤に高いお金を払うのは、よく言って宣伝に乗せられている、もっと言えば、無知につけ込まれて騙されているだけだ。

それをご説明するには、界面活性剤とは?から始めなければならないわけだが、それではみんな退屈で読んで貰えないだろう。よって最初にいわゆるナショナルブランドとエコを売りにしている製品を比べてみる。
まず理屈は後回しにして、食器用洗剤に使われている界面活性剤(汚れを落とす成分)をリストに示す。

界面活性剤リスト

化学名ばかりで目がチカチカすると思うが、以下、成分名は全て左端の短縮名で示すので、覚えておいて欲しいのは、石鹸(天然素材だがあまり性能は良くない)、LAS(石油から合成されたもので生分解性に劣る)、ASやAESなどその他全部(これらは全て高級アルコール系でほぼ天然素材、生分解性も悪くない)の3種類あるということ。これだけ。

まず、生分解性の悪いLASを食器洗い用洗剤に使っているメーカーは既に無い。よって天然素材だから環境にやさしいというのはウソだ。高級アルコール系は天然と合成と両方あるが、経済的理由からナショナルブランドも含めて、殆ど全て天然だし、高価な合成品は成分調整などの用途でしか使われておらず、また生分解性にも差があるわけではない。

以下具体的にみていく。

【ナショナルブランドの食器洗い用洗剤】
最初に基本形としてナショナルブランドを2つ取り上げる。

P&G 除菌JOYコンパクト
界面活性剤の濃度は33%、成分はAS、AO、AE の3つ。一番基本的な配合だ。こうやって複数の界面活性剤を配合するのは、界面活性剤には、落とす汚れや洗浄水の質などにより得手不得手があるため、複数の配合によって効率よく少量で落とせるようにすることと、手荒れを防ぐなどの効果があるため。

花王 キュキュット クリア除菌
界面活性剤の濃度は34%、成分はAB、AES、AG、スルホコハク酸塩、AGE。スルホコハク酸塩はあまりなじみがないが、ABとAESは併用すると効果が高いと言われている。

【エコを売りにする洗剤たち】
さて、いよいよ本題。エコを売りにする洗剤たちを取り上げる。

ミヨシ 無添加食器洗い石鹸 
界面活性剤成分は28%、石鹸のみ。これは潔い。
ただ、これがエコなのかというと、そうも言いきれない。石鹸は、水が冷たかったり、硬度が高かったりするとうまく泡立たず、どうしても合成洗剤と比べると使用量が増えてしまうのではないかと思う。生分解性がわずかに良い事や水生生物への毒性が少ないのは確かだと思うが、たくさん使ってしまったのでは結局エコとは言えないのではないか?但し、本製品は値段が高い訳でもないし、ウソ偽りのない製品であることは記しておきたい。

サラヤ ヤシノミ洗剤
わりあい昔から天然成分を売り物にしている洗剤。界面活性剤は、16%、成分はAESとAAで、ごく一般的な組み合わせ。この製品もお値段はリーズナブルだし、上手に宣伝しているだけで害はない。

セーフ 発芽玄米(販売元は敢えて書かない)
界面活性剤は17%、成分は、AS、AG、AAGと、何の変哲も無い。これにわけのわからんオーガニック発芽玄米抽出成分(韓国政府認定)を混ぜると、普通の洗剤の3倍の値段取れるのかよ?内容は普通の洗剤だから、生分解性も普通だ。むしろその訳のわからん抽出成分とやらが安全なのかどうか、ちゃんとテスト結果を示してほしいものだ。まあ、韓流大好きな人がお布施するというなら好きにすればよい。

フロッシュ 食器用洗剤 パフュームフリー(旭化成HP)
今度はドイツのブランド。界面活性剤は9%、ASのみ。旭化成としては、普通に洗剤を売り出したのでは花王やライオンに勝てっこないから、ドイツのエコブランドを持ってきたのだろう。確かにASは、LASと比べて生分解性が良いので、ASのみを低濃度配合してエコを売り物にするのは間違っていないが、既にLASは誰も使っておらず、現在の主流である他の高級アルコール系界面活性剤と比べてASが優れている訳でもないので、ある意味設計が古いだけと言えるかもしれない。なお、フロッシュも「洗浄力強化タイプ」は、界面活性剤濃度17%、成分もASにABを加えて、普通の洗剤になっている。

【一番エコな製品は何か?】
どうです。お判りいただけましたか?エコで売っている洗剤なんてどれも全くエコではない。フロッシュの低濃度配合というのが、一番現実的だと思うが、実はナショナルブランドにもそれはあるのだ。

花王 キュキュットクリア泡スプレー
界面活性剤濃度8.5%、成分は、AGE、AG、AB、スルホコハク酸塩、AE。因みに、この順番は濃度の高い順なので、先にあげた「キュキュットクリア除菌」と比べてABの濃度を下げ、AESに代えてAEを使っている。このあたりは、濃度を下げつつ、性能の低下を最小限にするための工夫なのだろう。また、泡スプレーなら使い過ぎが抑えられるのではなかろうか?生分解性に関する限り、使う量を減らせば当然に改善する。

したがって、本日の結論:
エコを謳っている高価な洗剤を使う事には何の意味もない。
もし環境にやさしくしたいと思うなら、ナショナルブランドの洗剤を、ともかく最小限の量で使う事。「キュキュットクリア 泡スプレー」は、界面活性剤濃度も低く、低濃度でつかうための性能的な工夫もなされており、お勧めできる。

以下はご参考。ご興味のある方だけ、

【まず界面活性剤とは】
洗剤の主成分は界面活性剤だ。水で洗い流せない汚れは油系が多い、水と油が溶けあわないからだ。界面活性剤というのは、親油基が油と結合して周りを取り囲み、親水基が水と結合して、油ごと水で流せるようにする物質の事だ。(簡単にするために厳密さは犠牲にしています。詳しくはこのあたりで:https://www.kao.com/jp/qa/detail/16751/)

【石鹸】
人類が最初に発明した界面活性剤は石鹸である。つまり石鹸も界面活性剤の一種だ。石鹸は、天然油脂(トリグリセリド)を苛性ソーダ(又は苛性カリ)で煮出して作る。そうすると、加水分解(この場合はけん化という)して、端っこに – COONa の構造ができ、水に溶けるようになる(元々油だから油は溶かす)

【旧来の合成界面活性剤 ABSとLAS】
石鹸には硬水ではうまく働かないという欠点もあって、石油由来のアルキルベンゼンスルホン化塩(ABS)が開発された。これは非常に性能の良い界面活性剤なのだが、極めて生分解性が悪く、河川や湖沼が泡だらけになって大問題になった。そこで、物性は似ているが、生分解性がかなり良好な、リニアアルキルベンゼンスルホン化塩(LAS)が開発され、昭和の終わりには、殆どの洗剤の成分がこれになった。但し、LASも石鹸に比べれば生分解性は劣るため、この時点で、
石鹸=植物由来=生分解性が良い=環境にやさしい 
対して、
合成界面活性剤=鉱物由来=生分解性が悪い=環境に悪い 
ということが一般常識になってしまった。
実際は、植物由来か鉱物由来かによって、生分解性の良い悪いが決まる訳ではない。また、石鹸が環境にやさしい訳ではなく、LASよりは石鹸の方がマシだということでしかない。

【現在使われている界面活性剤】
洗濯石鹸には未だにLASを使っているメーカーもあるようだが、大手が出している食器用洗剤にはもはや使われていない。現在使われているのは殆ど全て高級アルコール系(高級というのは炭素の数が多いという意味で、上等でも何でもない)で、これらの生分解性は、石鹸とほぼ同等かやや劣る程度とされている。なお、高級アルコールは、主としてパーム油などから得た天然脂肪酸を水素化して作る。花王は30万トンぐらい自家生産している筈だ。合成法は高価なエチレンから作られ、経済的にも「天然由来」の方が安いのだが、それでも天然由来100%を謳わないのは、植物油の調達先が複数あってそれぞれ組成が違うことなどから、品質安定のために合成アルコールを一部調達せざるを得ないからだろう。

【参考文献】
以下もっとお知りになりたい方のために参考文献リストを上げておきます

 ・暮らしの中の石けん・洗剤: https://jsda.org/w/00_jsda/1_jsda/JSDA_kurashinonakano_v12.pdf
 ・日本石鹸洗剤工業会 石鹸洗剤の知識: https://jsda.org/w/03_shiki/index.html
 ・NITE 身の回りの製品に含まれる化学物質シリーズ 家庭用洗剤4:
https://www.nite.go.jp/data/000097447.pdf

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