ある書物で、海事英語を専門にされている偉い先生が、バウスプリット(Bowsplit)は、ボースプリットと発音し、決してバウスプリットとは発音しない。何故なら、その語源が中世英語の「棒」を意味する”bouspret”だからと書いておられた(ダジャレではありません)。
「おー、そうか。知らなかった。」と感心したのだが、イギリス人はともかく、アメリカ人はどうも、平気でバウスプリットと発音しているようなのだ。(https://dictionary.goo.ne.jp/word/en/bowsprit/)
先生はきっと正しいのだろう。ただ、一般人が、船首(バウ)にある、bowsprit をバウスプリットと読んでしまうのはごく自然な事で、結局それが一般化してしまったのだろうと思う。
とはいえ、Bowline knot(もやい結び) だけは、ボーリンノットで、バウラインとかボーラインと呼ばれることは無い。まあ、そのへんは知っている方が良いと思うが、他人がボーラインノットと呼んでいるのを指摘したりはしないのが大人だと思う。
マストの傾きなどをレーキというが、これは容易に想像がつくようにrake(レイク)が訛ったものだ。ただ、普通にレーキ(rake)というと熊手の事で、綴りも発音も全く同じ。
なぜ熊手とマストの傾きに関係があるのかと不思議だったのだが、どうも、マストのレーキの方は、スウェーデン語のraka(突出したとか真っ直ぐとかの意味らしい)が語源だとのこと。
最近あまり聞かないけれど、疲労困憊してフラフラになった状態などのことを「グロッキー」と言う。あれも、少し訛っていて、本当はグロッギー(Groggy)だ。
昔、英国海軍では、すぐに腐ってしまう水の代わりにラム酒を水で薄めたものが配給されていて、その水割りのラム酒のことをGrogと呼んでいた(Grogという呼び名に至るストーリーはなかなか興味深いが、それはこのへんで:https://bit.ly/3FwHMkL)。
よってGrogを飲みすぎてふらふらになった状態がGroggy。
英語には、こういう船乗りの言葉が、そのまま一般名詞になったものがいくつもあるが、どうも日本語で同じような例がすぐには思い浮かばない。
英国では、長い歴史の中で、船乗り言葉が一般人の英語に取り込まれていったと言われていて、その意味では、日本で同じことが起こっても不思議はない筈だが、日本の場合には軍艦、商船を問わず瀬戸内出身の一種の専門家集団によって船が運用されていたために、彼らの使う言葉があまり一般人に浸透しなかったということなのかも知れないと思っている。
コメント
「しけてる」なんて海洋方言(船言葉)からでは?と思って今調べたら、あれは「湿気てる」なんですって。
そうか…
日本語のムアリングブイは、ムーリン。ムーミンみたいで可愛らしいし、覚えやすいので、外人艇に乗っている日本人女性は皆さんムーリンと仰います。