ヨットのアース

ヨットの電装分野ぐらい、人によって言う事が違う話題は無い。以前このブログでも取り上げたスルハルの電蝕問題（https://yachtakane.com/15812371-2/）についても、ある人はスルハル全部をボンディングしなさいと言うし、ボンディングは危険だからしてはいけないという人もいて、結局のところよく解らないから、僕なんかなるべく思い出さないようにしている （！）。

とはいえ、今回一つだけはっきり解ったことがある。陸電のアースをエンジンブロックに直接繋ぐのはやめた方が良い。

冒頭の図を見てほしい。船のDC12V系のマイナス端子側は通常エンジンブロックにアースされている。そこへ、陸電の漏電防止のためのアースを繋いだ場合、陸電のアース→船内のアース線→エンジンブロック→セールドライブと繋がり、もし陸電のアースとマリーナのポンツーンの脚部が絶縁されていなければ、アノードにセールドライブ（アルミ）、カソードに ポンツーンの脚（鉄）そして海水を電解質とした、ボルタの電池の回路が見事に出来上がる。もちろん防蝕亜鉛はついているだろうが、ひどい場合には、一晩で亜鉛を食い尽くしてしまった例もあるのだという。

一方、ACのアースを取らない場合、船内の機器に漏電があると感電のリスクが出る。そこで、ABYC（American Boat and Yacht Council)では、 ガルバニックアイソレーター（ジンクセイバーともいう）の使用を推奨している。この装置は、 交流電流は流すが直流電流は流さないというもので、なるほどそれなら、感電の危険のある交流100vのバイパスとしては電流が流れ、ガルバニック腐食を助長する直流の電流は流さないことになる。よく考えたものだ。

もう一つの解決策は、ACのホット、コールドの2極だけでなく、アースも繋いでしまい、いわば陸電ポストの電気を船から浮いた状態で使う方法。普通にマリンコの3極のコネクターで陸電を取ればそういう状態になる（下図）

但、マリーナ側で有効な接地が取られているかどうかについては注意が必要。ましてや寄港先では、どうなっているかわからない。海の駅などでは、電気さえあれば良いのでしょう？と普通の家庭用の2線式のコンセントしかないところも多いので何等かの対策が必要だ。とはいえ、うちの船でアースが必要な機器なんて電子レンジぐらいのものだから、一番安上がりな対策として次の方法を考えた。

寄港先で陸電を取ったら、まずちゃんとしたアースが取られているかどうかを、レセプタクルテスター（アメリカでは一般的で1000円ぐらいで売られている）という機器でチェック。もしエラーがでたり、又は元々アース線の無い陸電だったら、電子レンジのアース線だけを臨時にエンジンブロックにつなぐ。
この方法なら、アースされているのは電子レンジの躯体だけで、船内のアース（グリーンのライン）はどこにもつながっていないから少なくとも電蝕の心配はない。

それにしても不思議なのは、日本にはガルバニックアイソレーターなんてどこにも売っていない事。陸電のアースを取らない船が多いのだろうか？日本製の電化製品は優秀なので漏電自体が少なく、あまり問題にならないだけかも知れないけど。

図の出典：
Sterling Power Product Zinc Saver のカタログ  
https://cdn.shopify.com/s/files/1/0658/7343/files/ProSave2.pdf?493