油混じりのビルジをそのまま海に捨てちゃいけないのは当然として、どのぐらいまで処理すれば良いんだろうと思って調べ始めたら、何と!ビルジは一切排出禁止(本船と同じ基準の処理装置を設置しない限り)、違反した場合は1千万円以下の罰金、小型船でも例外規定無し。だそうです。
海洋汚染防止法(正式名:海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律)は、第4条に船舶からの油の排出の禁止を定めており、その条文は以下のとおりです。
第四条 何人も、海域において、船舶から油を排出してはならない。ただし、次の各号の一に該当する油の排出については、この限りでない。
一 船舶の安全を確保し、又は人命を救助するための油の排出
二 船舶の損傷その他やむを得ない原因により油が排出された場合において引き続く油の排出を防止するための可能な一切の措置をとつたときの当該油の排出
2 前項本文の規定は、船舶からのビルジその他の油(タンカーの水バラスト、貨物艙の洗浄水及びビルジ(以下「水バラスト等」という。)であつて貨物油を含むものを除く。次条第一項において「ビルジ等」という。)の排出であつて、排出される油中の油分(排出される油に含まれる前条第二号の国土交通省令で定める油をいう。以下同じ。)の濃度、排出海域及び排出方法に関し政令で定める基準に適合するものについては、適用しない。
ちなみにビルジの定義は、「船底にたまつた油性混合物」です(第3条12号)
第1項の緊急時の例外規定は当然として、通常運用時の例外となりそうなのは、第2項の「排出される油中の油分の濃度、排出海域及び排出方法に関し政令で定める基準に適合するもの」ということになりますが、これを定める政令(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律施行令)には、以下のように規定されています。
(船舶からのビルジその他の油の排出基準)
第一条の九 法第四条第二項に規定する船舶からのビルジその他の油の排出に係る同項の排出される油中の油分の濃度(以下「油分濃度」という。)、排出海域及び排出方法に関し政令で定める基準(以下この条において「排出基準」という。)は、次のとおりとする。
一 希釈しない場合の油分濃度が一万立方センチメートル当たり〇・一五立方センチメートル以下であること。
二 別表第一の五に掲げる南極海域(次項、次条第一項第三号、第一条の十一、第二条、第四条第四項並びに第九条の六第一項及び第二項において「南極海域」という。)及び同表に掲げる北極海域(次項及び第一条の十一において「北極海域」という。)以外の海域において排出すること。
三 当該船舶の航行中に排出すること。
四 ビルジ等排出防止設備のうち国土交通省令で定める装置を作動させながら排出すること。
このうち、第1項の油分15ppm以下は良いとして、第4項の国土交通省令で定める装置を作動させながらというのが問題です。
その国土交通省令(海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律の規定に基づく船舶の設備等に関する技術上の基準等に関する省令)は、次のようになっています。
(油水分離装置)
第五条 油水分離装置は、次に掲げるものにより構成されるものとする。
一 油水分離器
二 油水分離器用ポンプ
三 こし器
四 排水採取装置
五 再循環装置
2 前項第一号の油水分離器は、次に掲げる基準に適合するものでなければならない。
一 油分の濃度を当該油水分離器からの排水一万立方センチメートル当たり〇・一五立方センチメートル以下とする性能を有するものであること。
二 船舶内において発生するビルジの処理のための十分な能力を有するものであること。
三 水平面から任意の方向に二十二・五度傾斜している状態においてもその性能に支障を生じないものであること。
四 船舶の航行中における動揺、振動等によりその性能に支障を生じないものであること。
五 検査及び清掃が容易にでき、かつ、ビルジが漏えいしない構造のものであること。
六 油分の濃度が排水一万立方センチメートル当たり〇・一五立方センチメートルを超えた場合に排水の排出を自動的に停止するものであること。
3 第一項第二号の油水分離器用ポンプは、同項第一号の油水分離器が処理することができるビルジの容積の百十パーセントを超えない容積のビルジを供給するものでなければならない。
4 第一項第四号の排水採取装置は、できる限り油水分離器に近い当該油水分離器の排出管の鉛直に配管された部分において、排水の採取ができるものでなければならない。
5 第一項第五号の再循環装置は、排水の排出先を船外から船内へ切り替えることができる構造のものでなければならない。
6 油水分離装置を設置する船舶には、当該油水分離装置の取扱い及び保守に関する説明書を備えていなければならない。
つまり、これは本船用の巨大な装置で、排出物の油分が15ppmを超えたら自動的に停止する機構がついていなければならないなど、とても小型船に設置できるようなものではありません。なお、大型船には総トン数に応じてより厳しいルールが定められていますが、小型船への免除規定はありません。したがって、そのような装置が設置できない以上、ビルジの排出は一切認められないという事です。
一方、これらの法令上、「船員その他の者の日常生活に伴い生ずるふん尿若しくは汚水又はこれらに類する廃棄物」の海上廃棄について、国際航海に従事しない、最大搭載人員百人以上でない船舶に対する規制はありません(法第十条第二項第一号、施行令第3条および別表第二)。
また、汚水(食器洗いや掃除・洗濯で出る水など)も同様に、排出に関する規制はありません(法第十条第二項第三号、施行令第四条の二第1項4号および別表第四)。
炒め物をしたフライパンを洗剤で洗った洗浄水は海に流してもOKで、ビルジを油吸着マットで処理した上にさらに油処理剤で中和した水は流したら罪になります。どこが違うのか?と問いたいところですが、法律の立て付けはそうなっています。
これらの内容は、海上保安庁(五管の総務課)に、ヤブ蛇にならないように細心の注意を払いつつヒアリングして確認しました。具体的には、ビルジはどのように処理すれば良いのでしょうか?と聞いた訳ですが、「ビルジの排出は一切禁止です(法令に合致した油水分離機を経由しない限り)」、「ポリタンにでも入れて全て持って帰り、マリーナで陸上処理してもらうのが良いでしょう」、「沿岸で活動する巡視艇もそうしていますよ」とのご回答でした。
本件、ずいぶん理不尽な規制内容になっていますが、実際には日本中の漁師さんがこれを律儀に守っているとはとても思えないし、最終的には、各人が良心にもとる事の無い行動を取るということしかないのだろうと思います。
ただ、絶対覚えておいたほうが良いのは、ビルジを捨てるところを巡視船に見つかったら、検挙されて最大1千万円の罰金を喰らうっていうところですね。
【ご参考】
海上保安庁の「令和6年の海上犯罪取締り状況(速報値)」によりますと、令和6年の海上汚染防止法関係の送致件数は312件、うち船舶からの油や有害液体物質の排出を理由とするものが71件あったと報告されています。決して取り締まりきれないから黙認しているという状況では無いことがわかります。https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/r7/k250122_1/k250122_1.pdf
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