荒天時のタクティクスは辛坊さんのYoutubeで学ぶ

先日、古賀道明さんの、【ヨット「TSUYOTAKA」太平洋横断往復航海の記録】がKindle化された。勉強になることが満載でお勧めの一冊だ。
同氏は、私より少し歳上で、大学でヨットを始められ、就職してから同僚と小型のクルーザーを共同所有、60台初めで退職されて日本周航、65歳でついに太平洋横断と、最後の太平洋横断まで行きつけるかはともかく、ずっと自分の前を走っておられる先輩だ。ご本人とも一度だけお会いしたことがある。

さて、この本の第10章 荒天時の対策 の冒頭には、「これまで荒天には一度も遭遇したことがなかったので、経験者に聞いたり、 本を読んだり、インターネットで調べ た」と書かれていて、まあそうだろうなあと思う。気象予測の発達した昨今では、荒天に遭遇すること自体が珍しい。とはいえ、外洋に出ればいつ本格的な荒天に遭遇するかわからない訳で、参考資料がぜひ欲しい訳だが。。。

荒天対策の本ということになると、実体験が書かれているのは、アドラード・コールズのヘビーウェザーセーリングぐらいなもので、ジム・ハワードのサクセスフルクルージングでも、野本先生のスピン・ナ・ヤーンでさえも、自分は喰らったことはないが…という枕詞付きだ。
いずれの本も結論は同じで、次の3つの方法のうちから、船の性格や状況に合わせてベストなものを選びなさいとしか書いてない。

  1. ライング・ア・ハル: セールを全部畳んで漂い、船の耐久力と神様に任せる
  2. シーアンカー: パラシュート型のものを船首から流せば風上に向いて安定する可能性があるが、実際は効果が怪しいとも言われている
  3. ランニングダウン: 最小限のセールかベアポールで風下に向かって走る

しかも、ヘビーウェザーセーリングの初版が出たのは1967年だから、我々が現在乗っている船は当時のものとは全然違ったものになっているだろう。

しかし、ありがたい事に、最近、辛坊さんが、太平洋横断の途中に三陸沖で台風級の低気圧に捕まってしまった時の様子が映像付きでYoutubeに上がり始めた。
乗られている船もHallberg Rassy39 センターコックピット。外洋に最適な、グレードの高い船だとはいえ、一般的な中~軽排水量の船型で我々の船と基本的には同じ系統である。これは参考にしない手は無い。

結論から言うと、動画を見る限り、最小限のセールを展開して風下に走るランニングダウンで、風速60kt、波高6mというような海況を余裕で乗り切っているようだ。
動画では、ジブを割合大きく展開しており(トラブルでこれ以上小さくできなかったという説もある)、速力が10kt近く出てしまっていた。流石にこれぐらいになると、波を追い越してしまって前の波に突っ込み、バウ沈する危険もあるので、ベアポールするなりして速力はもう少し落とした方が良いように思うが、ある程度速度を維持しているからか、後ろから波に打ち込まれることも無く安定していた。ランニングダウンは、シングルハンドの場合、1人きりで何十時間も舵を取り切ることに無理があるのが最大の難点だが、キャビンに潜り込んでしまって、船内の風向風速計とスピードメーターのリピーターを頼りに、オートパイロット(ウインドベーンでは無理だろう)のリモコンを操作して、うたた寝したり起きたりを繰り返しながら風下へ走り続けるというのは、現実的な解決法だと思う。

因みに先に挙げた文献では、速力が早くなり過ぎる場合、ドローグ(ロープやロープに抵抗になるコーンなどをつけたもの)を船尾から流す方法も紹介されているが、スピードを落としすぎると追い波の打ち込みが危険だし、操船の自由も失われるので、現代的な船には向いていないのではないかと思う。
また、ライング・ア・ハルは、船体やリグへのダメージが心配で、さらに、波に翻弄される船内に籠るのは想像以上に乗員への負担が大きいのではないかという気がする。

ご判断は皆さん自身にお任せしたいが、この動画が極めて重要な映像資料であることは間違いない。是非ご視聴頂きたいし、ご意見も伺ってみたい。

YouTube 辛坊の旅

10日目(一番荒れてる時): 

11日目(一夜明けて解説): 

【7月22日追記】
「辛坊の旅」この後も毎日アップされてます。必見は、
15日目(風力8ぐらいのGale): https://youtu.be/vuNYnfCYT4s
サバイバルというよりは、通常の荒天帆走の最強レベルというところですが、25分30秒あたりからのブローでは、波頭が千切れ飛んでいますので、 瞬間最大50kt近く行っていると思います。それにしても安定してますな。HBR欲しいな。

18日目(嵐の前日): https://youtu.be/e1z8eO3lhr0
19日目(嵐が明けて): https://youtu.be/N48YNJHnxYg
流石に嵐の最盛期には記録ができなかったようですが、明けて全然楽になりましたという19日目の波がすごいです。どれだけ酷い嵐だったのかよくわかります。

【21年12月21日追記】
「ヘビーウェザーセイリング」の日本語版は、第3版の翻訳ですが、原著は現在では第7版まで出ており、内容が全面的に改訂されていることが分かったので、読み直してみたところ … その第2章に、水槽実験の結果として、近代的なフィンキール、セパレートラダー、幅広船型の船であっても、船尾からドローグを流すのが転覆を避ける最も確実な方法であるとの記述がありました。
これはちょっと意外でした。
ドローグについての詳細は第7章なので、そこまで読み進んだら、内容をこのブログでも稿を改めてご紹介しようと思いますが、取敢えずランニングダウン一択じゃないようなので、ここに注記しておきます。

コメント

  1. O川 より:

    毎日楽しみに見ていますが、私的に一番ためにはったのは「プランターの土には気をつけろ」ですね。
    あと荒天に備えてメインの収納とか縮帆とか考えると、ブームファーラーがいいなーと思ったり。

タイトルとURLをコピーしました