ヘビーウェザーセーリング – 船のデザイン

ヘビーウェザーセーリング第7版の Part 1 では、荒天タクティクス以外に荒天に強い船のデザインや構造について、一つの章を割いている。
そのなかで、「へーそうなの?」とか「マジかよ」ってなった記述がいくつかあったので取り上げてみる。

最初に一番びっくりしたやつ(なお、翻訳は逐語訳ではなく、前後の文脈も含めた意訳ですのでご理解下さい):
「(水槽試験によれば)どのようなハルの形状とバラストの組み合わせによっても、LOAの55%を超える高さの崩れ波を受ければ、転覆してしまう。さらに、130度ヒールした状態で、タイムリーにLOAの35%の高さの波を受けると転覆する。」(第2章22ページ)
つまり、自分の船(11m)は、6mの崩れ波を横から受ければ、あっさり倒立沈するという事。
それと、重くてAVS(復元力喪失角)の大きい、クラシカルなロングキール艇などは転覆に強いのだろうと思っていたのは、間違いだったという事。
もちろん、完全倒立状態からの復帰し易さは全然違うのだけれど、結局あれは決して転びにくいのではなく、転んだ時に起き上がりやすいだけなのだ。

それと、「慣性モーメント(すべての重量要素と軸からの距離の2乗の積の総計)を船の総重量で割って得られる量の平方根を、Gyradius(断面回転半径)といい、選択した軸のまわりを回転させるようにヨットに与えられる加速度への抵抗の尺度として機能する」(同7ページ)
これは何を言っているかというと、船を転覆させる力への抵抗は、Gyradiusで決まるが、その要素である慣性モーメントには、重量増加より重心からの距離の方が効きが大きいから、幅が狭くてキールの浅い重排水量より、一定の幅と深いキールを持つ中排水量の方が転びにくいのかも知れないという事。ただし、極端に軽いものは不利。また、完全倒立時に安定してしまうほど幅の広いものもいけない。

一番転びにくさに影響するのは、芸はないが船を大きくすることで、「幾何学的には、相似形のハルならば、全長が増加すると、復元モーメントはその4乗で増加する(第1章4ページ)」

結論として、この章の筆者であるOlin Stephens氏(ヨットデザイナー・セイラー)によれば、「荒天に遭遇する時に自分が一番乗っていたいと思い浮かべるのは、全てにおいて中庸な船である」とのことであった。

また、同氏は一方で「これまで転覆しにくさについて、縷々述べてきたけれども、実は自分の外洋航海の経験では、そちらが気になったことはあまりなく、むしろ折に触れて、浸水や、ハルやリグの強度などが心配になった。」(同上)と述べておられるのも興味深かった。

なるほど、頑丈で中庸な船ねえ。HBRが欲しくなったな。

コメント

  1. Aurora より:

    Hallberg-Rassyは自分の経験からも一押しの良い船です。ほかにもPacific Seacraft、オランダのContestなど乗ってみて安定感のある好い船ですね。以前にもLin&Larry Pardeyの著作をお薦めしましたが、荒天Sailingでなるほど!と感じたのがStorm Tacticsビデオです。ちなみに24ft, 30ftと小さなエンジン無しの自作ヨットで夫婦で世界周航、日本にも立ち寄ってます。2007年春にOakland Boatshowでご夫婦にお会い出来たのが大変好い思い出となっています。

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