辛坊さんの太平洋横断とインナーシュラウドの破損

辛坊さんが、太平洋横断の快挙を達成された。まずはおめでとうございます。

ところで、ご本人がTwitterで発信されたこの写真（https://twitter.com/JiroShinbo_tabi/status/1405957114888036364/photo/1）を見て、おやっと思った。

これは、D2（インナーシュラウドの下から2番目）のマスト側のターミナルで、図示するとここ。

この部分のターミナル、写真だけではわかり難いかも知れないが、シュラウドの伸びの方向には強いが、横方向に曲げる力には極めて弱い形状になっている。つまり、そのようなテンションがかかることは想定されていない。

一方、カオリン号（Halberg-Rassy 39）の帆装は、マストヘッドリグでスイングバックしない2本のインラインスプレッダーで支える形式である。
そこで疑問なのは、何故D2に曲げの力がかかるのかということだ。
このぐらいのサイズの船の場合、シュラウドには1トン近いテンションを掛ける。張力方向に強烈な力をかけてあるシュラウドのターミナルに何故曲げの力がかかるのか？しかもV2に？
もちろん厳しい荒天に遭遇したということはあるだろう。しかし、インラインスプレッダーの場合、D2の役割は、ほぼマストの横ベンドを防止することにあり（スイングバックスプレッダーの場合は縦ベンドを止める役割も担っているのだが）シュラウドと直角の方向に強い曲げ方向の力がかかるケースは少ないと思うのだ。

そこで、もう一度出航時の動画を眺めてみると。。。

この船は、ストームジブを展帆するためのインナーフォアステーを追加してある。しかも、通常は必要な筈のランニングバックステーが見当たらない。
原因はこれかも知れない。ランナーの支えなしにストームジブを展帆されたインナーフォアステイに引かれて、マストが前後方向にベンドし、また、巨大な波を受け続けることによって、マストがベンドと直立を何度も繰り返した（波頭では風を強く受けてベンド、波の谷間では風を受けられずにマストが直立に戻る）ことにより、D2のマスト側ターミナルに想定外の力が繰り返しかかって破断したとは、考えられないだろうか？

自分も、インナーフォアステイを追加してそこにストームジブを展開できれば便利そうだなあと思っていたのだけれども、帆装の変更は余程慎重にしなければいけないと思った。

【追記】
ご指摘があったので、他のビデオも観てみると、確かにランナーらしきものが装備されています（サイドステ―の根元に固定されているテークルのついたラインがそれです）。
先ほどは、不適切改造の可能性もあると書いてしまいましたが、お詫びして訂正させていただきます。ただ、この装備では、ランナーを利かせるには根元のところで一旦外して、都度スターンに移し替えなければならず、適切に使用されていたのかどうかは若干疑問が残ります。
また、荒天時にランナーを使って無かったのではないかと疑うのは辛抱さんに失礼でしょうとのご指摘もごもっともで、それはその通りだとして、ランナーが先に何等かの理由で破損して、結果的にD2のトラブルにつながった可能性は残ります。
シュラウドのテンションも適切で、ランナーも正常に機能していたのに、荒天だけでD2が破損するということがあり得るのかどうか？私にはそこが一番知りたいところです（自身の身の安全のため）。