自艇のアンカーの実力は?

自分が今積んでいるアンカーとロードで、一体どのぐらいの海況まで耐えられるのだろう?

 一般にはメーカー推奨のアンカーサイズから類推したり、雑誌のユーザーテストなどを参考にするのだろうが、それらはいずれも数値がバラバラ。テストの中には明らかにメソドロジー的に不適切なものや、結果が他から飛び離れているものがある。
 まずは、メーカーの推奨サイズ。
 どのメーカーもカタログ値には幅があるが、35フィート、7トンのヨット用の中心値は、フォートレスが4.5kg、ダンフォース(スタンダード)7.3Kg、デルタ10Kg、バルカンデルタ(ハイテン)12Kg 、ロックナ15Kg、マンタス15kg。フォートレスやダンフォースが軽いのは想定通りだが、デルタがアグレッシブな印象を受ける。メーカーによって軽くても効きますと売り込みたいのか、このアンカーなら安心ですと売り込みたいのかで、推奨サイズが違ってしまう要素は否めない。
 次に、ユーザーテストとして良く引用される、ウエストマリンの2006年のレポート。
(https://www.westmarine.com/WestAdvisor/Anchor-Testing)
これは、14個のアンカーに6mのチェーンと32mのナイロンロープを付けて水深7.6mの海底に沈め(スコープ5:1)、大型ボートで最大2,200Kgfの力をかけて引っ張るというもの。結果は総じてCQRやブルースのパフォーマンスが悪く、フォートレス(10kg)、デルタ(16kg)、ロックナ(14.5kg)は最大の2,200kgfにも耐えたケースがあった。また、抜ける直前に耐えていた値の平均は、フォートレス950kgf、デルタ1450kgf、ロックナは2100kgfであったとする。

 これらを把駐力係数(把駐力/錨の重量)に引き直すと、フォートレスで95、デルタが90、ロックナは、何と144にもなる。
 一般に、本船が使うJIS型ストックアンカー(AC-14)の 把駐力係数が7−10程度、それよりは効率の良い小型船用のアンカーでも20−30程度だと言われていたので、この数値は飛び抜けている。また、わずか6mのチェーンがついた38mのロードで、1000kgf以上も引っ張り荷重を掛けると、ロードは完全にピンと伸びきった状態になり、これらのアンカーは約11度引き起こされる角度で荷重を受けていたはずだ。アンカーは引き起こし角度が5度を越えると信頼性が急速に低下し、10度以上では走錨するリスクが高いと言われている(スピンナヤーンp42−43)。
 そのような悪条件で 、これほどの把駐力を発揮してくれるならば有難いことだが、この結果は俄かには信じ難い。或いは余程底質などの条件が揃っていた結果であろうと思われる。

 ところで海況に対応して必要とされる把駐力は、どの程度なのだろうか?
 下の表をご覧いただきたい。

 港の中か比較的良く護られた湾内での錨泊を想定した場合、常用アンカーとしては、風速40kt、320kgfに耐えられればまずOK、できれば風速50kt、500kgfに耐えられればより安心というところか。台風はそれでは凌げないが、台風を吹きさらしの泊地で単錨泊で凌ぐという局面は考えにくいし、また、そんな強力なアンカーをバウに吊り下げておくわけにもいかないから、この辺りにしておくのが現実的だろう。
 さて、目標とする把駐力が定まったところで、次の問題は、把駐力係数をいくつと推定するかである。添付はフィンランドのKippari(Skipper)誌が2015年3月に行ったテスト結果。影響要素の多い海中でなく、陸上でアンカーを引っ張って把駐力を計測している。(残念ながらKippari誌はフィンランド語なので、PeterSmith.net.nzからの孫引きになっている。https://bit.ly/33PU41N

 これによると、ほぼ地面と平行に引かれる理想的コンディションのもとで、マンタスやロックナは、最大約500kgf(5000N)、硬い砂の土壌でも300−350kgfの把駐力を発揮する。これは把駐力係数にして、30−45と常識的な数値である。 また、フォートレスが軟弱土壌で異様に強く、硬い砂で弱いとの結果も腑に落ちやすい。一方、他のテストと比較して、自艇の常用アンカーであるデルタが硬い土の上でパフォーマンスが悪いが、これらは硬い土の上でセットされず、引っ掻きながら滑った結果ではないかと思う(こういう可能性があるということは心しておく必要がある)。
 この結果は、メソドロジーが単純ではっきりしているので、信頼性が高い。理想的な引かれ方をする前提ではあるが、マンタスとロックナの把駐力係数を30、デルタは底質注意としながらも20と置いておくのは、まずまず固い数字ではないかと思う。
 但し、引き起こし角の問題は重要である。再度スピンナヤーンに戻って(p46)、これらのアンカーが本来の実力を発揮するためには、チェーンが30mついていてもスコープは5倍、チェーンが10mしかなければ、スコープは7倍取る必要があるということは覚えておきたい。

 最後に、これを自艇に当てはめてみる。
 自艇のメインアンカーはデルタの10kg、サブがマンタスの 25lbs(11.3kg)である。メインがサブより軽いのは主として格納場所の都合による。ロードはフルチェーンだから、引き起こし角の問題は無い。
 メインのデルタの場合、把駐力係数を20と置いて200kgf、これにロードの繰り出しを50mとして重さが70kgあるので把駐力が70kgf(チェーンの把駐力計数は通常1で計算する)、合計270kgfぐらいの把駐力を期待できそうだ。 よって、風速が 30kt(15m/s)を超えなければ、このままで良い。
さらに厳しい海況が予想される場合は、サブのマンタスに取り替えて打っておけば、アンカーの把駐力が339kgf、チェーンが70kgf、合計409kgfで、風速 40kt(20m/s)強までは耐えられるだろう。

 考えようによってはこれでぎりぎり充足しているようにも思うが、長期の巡行に出るときには、お守り代わりに45lbs(20kg)ぐらいのストームアンカーを一つ用意しておきたいと思う。

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