アンカーについて考えてみる

何故ユーザーテストが当てにならないのか
雑誌やディーラーが良くやる、アンカーのユーザーテストなるものが、自分達の感覚や経験と全く合致しないのはなぜだろう。
理由の一つに、「アンカーの効き」という表現の問題があるのではないかと感じている。
何故なら、「効き」を測るためのメトリクス(計測尺度)は、単に一旦セットされたアンカーが何ニュートンまでの引っ張りに対して走錨せずに耐えるかということになりがちで、実際に、アンカーに関する殆どのユーザーテストは、さまざまなタイプのアンカーを海底に沈めて大きなボートで引っ張り、各アンカーがそれぞれの底質で何トンまで耐えましたというような結果になっている。
ところが、実際にユーザーが求めるものは、端的に言えば「安心してかかっていられること」だ。そのためには、まずはセットされること、それから抜けたり引きずられたりしないことが必要なのだが、上記のようなテストには、狭くて条件の悪い泊地でもセットされるかとか、風向潮流の変化で横から引かれたときに抜けにくいかとか、もっと言えば、万一走錨を始めた時に幾分でも引っかきながら走るのか、それとも全く何の抵抗もなく走ってしまうのかといった指標が完全に抜け落ちている。
ご批判を恐れずに言わせてもらえば、ダンフォース型のアンカーが「よく効きます」というのは、①柔らかい底質で、②スコープを最低でも6倍以上とれるようなシチュエーションで、③幸運にして風向が変わってすぽっと抜けてしまわなかった場合、「よく効きました」ということだと思う。

アンカーが使用されるシチュエーションや底質は、船によって、また活動の範囲によっても大いに違う。だから、アンカーの優劣は、それぞれの船がアンカーを使う局面や用途毎に検討されなければならない。
私の場合、ケースは三つ。頻度の高い順に言うと、
1. 漁港で艫からアンカーをいれてヤリ着け(含ビームアンカー)
2. 入り江で錨泊(含ビーチに泊めて泳ぐ)
3. 旅先で台風に遭ってしまい港内で錨泊して凌ぐ(野本先生の本には載っているが自分は未経験)
となる。したがって、これらをそれぞれについて検討してみようと思う。

ところで英国では、ひとの船のアンカーをけなすのは、奥さんをけなす以上に彼を怒らせることになるなんて言うらしい。日本にダンフォースアンカーの信者の方は多いので、あくまでこれは私個人の感想や意見だということでご勘弁いただきたいと思う。

ケース1 漁港で打つアンカー
まず、申し上げたいのは、フォートレス等も含むダンフォース型のアンカーを全否定しているのではない事。この手のアンカーはコツさえ掴めばちゃんと効く。コツというのは、充分に長いスコープ、(最低でも水深の5倍ぐらい)を取ってから、パワーセットすること。爪がちゃんと海底にかかれば、 わずか4.5キロのフォートレスが、 6.5トンある自艇をしっかりホールドしてくれる。
しかし、これは漁港の中では全く現実的でない。狭い漁港で岸壁のはるか彼方でアンカーを入れ、しかも一度パワーセットしてから着岸なんてできるだろうか?
そこで、この用途には、ある程度の重量があって、スコープがあまり取れなくても、それなりにそこそこ効いてくれるようなアンカーが良い。経験的に一番良いのは、唐人アンカーなのだけれど、これは漁船みたいで嫌だという人も居るだろうし、収納場所にはマジで困る。
デルタなどのプラウタイプもスコープがそこそこ無いと効かないと思う。ブルースの方が少しマシかもしれない。
そこで、この用途には敢えてFOBアンカーを推してみたい。

FOBは、フランス製でビューロベリタス(フランスの船級協会)のお墨付きだが、一般的にはあまり人気のないアンカーだと思う。
雑誌などのユーザーテストでも殆ど出てこないし、某国産錨メーカーのHPではクソミソ。海外のフォーラムでも、安くて搭載場所を取らないので、インスペクション用のセカンドアンカーにちょうど良いなんて酷評されている。
しかし、場所を取らないと言う利点はもっと強調されて良いと思う。この写真は、5キロのフォートレス(36フィートヨットへのメーカー推奨サイズ)と、12キロのFOB(同上)を並べたもの。シャンクはFOBの方が短いし、フォートレスは、このフルークと並行のストックが邪魔で、コックピットロッカーから引っ張り出す時に必ず何か別のものを引っ掛けて一緒に出てくる。

さらにこのFOBアンカー、経験的には結構場所を選ばず効くのだ(槍付の時にスターンから打つアンカーは、FOBの弱みである横方向に引かれることの心配が無いこともある)。
このアンカーの特徴は、クラウン(アンカーのお尻の台形をしたところ)がかなり大きくて重く、フルークがハート形で爪が左右二つに分かれているところ。アンカーが着底した時にまずクラウンが海底に触れ、その抵抗でフルークが倒れて、左右に分かれた爪のいずれかが海底を引っ掻くのだろう。
この形状はむしろ本船が使うストックレスアンカーに近く、ダンフォース型のように完全にセットされないと全く効かないということではなく、クラウンや爪の先が中途半端に引っ掛かった状態でもそれなりに重みで効いているという状況もあるのかも知れない。だからある程度重くなるのは必須で、重いのは我慢するしかない。
残念ながらFOBは日本では手に入りにくいが、よく似た形でブリタニ―アンカーというものがあり、形はほとんど一緒なので多分特性も似ていると思う。

ケース2 入江で錨泊
この場合はセットするための時間や条件(スコープなど)には余裕があるので、大事なのはセットされた後で抜けにくいことと、万一抜けた時に再貫入してくれることだと思う。
そう言う意味でもダンフォース系は採用しにくい。ダンフォースは一度抜けると、イカみたいに海中を泳いで、海底を引っかきもしない。ダンフォースが抜け、突然船がとめどなく流れ始めて止まらなくなり、慌てた経験をされた方は私だけではない筈だ。
一方、柔らかい底質でプラウタイプは表面の土壌ごと引けてしまうと言う話を良く聞くが、そういう場合の引け方はもっとゆっくりなので、エンジンで支えるなり、アンカーを打ち直すなり対処するために時間が取れるのではないかと思う。
この用途での一押しは、ロックナかマンタス(写真はロックナ)。ロールバータイプで、先に参考にならないと言っておいて何だが、アンカーテストでの再貫入能力の評価では、これらのロールバータイプが優れているとされている。

もちろん、定評のあるデルタやブルースに文句は無い。ただ、CQRだけは、あの首振りをされると脛を思い切り打ちそうで怖くて触りたくないという気はする。

因みに自艇の主錨は、造船所が最初から付けてきたデルタの10kgで、36フィートにしては随分軽いのだが、バウローラーへの収まりが良いのが捨て切れず、軽すぎる分をフルチェーンにして補っている。アンカーは、チェーンが海底に沈んでいて海底面と平行に引かれている場合、そう簡単に走錨するものではないが、心配な時には、副錨に持っているマンタスの12kgに交換して使うつもりだ。

ところで、本船の場合、5,000総トンの貨物船(満載時の排水量9,000トンぐらい)のアンカーで3トン弱、自重に比べれば随分軽く、そのかわり十分な長さのチェーンを積んでいる。あまり怖い目に合ったことのない自分の経験でものを言うのは危険かも知れないが、アンカーよりはロードの方がよほど大事なのではないかと思っている。(とはいえ、やはり心配になり、2021年に15Kgのスペードに換装した https://yachtakane.com/29859666-2.html

ケース3 荒天避泊のためのアンカー
最後に荒天避泊のケース。これは自分が一生のうちに経験することになるのかどうか、正直わからない。ただ、長距離の巡航に出れば台風が来ても不思議はないし、保険にストームアンカーを持っておくことは必要なのだろうと思う。この用途での選択肢としては、ロックナ、マンタス、ブルース、デルタのいずれかしかなく(先に挙げた理由で巨大なCQRをバウへ運ぶ作業は危険すぎる)、最低でも20Kgか25Kgぐらいは必要だろう。しかし問題はどこに置くのかということ。巨大なブルースがキャビン中央のテーブルの足に括り付けてられているなんていうのも、潮気が感じられて良いが、しょっちゅう足をぶつけて涙目になるのが関の山ではないか?
そういえばマンタスは、組み立て式になっていて、平べったい箱に入って届くので、それを組み立てずにそのままセティーバースの足元にでも固定する手があるかも知れない。

写真は、The Voyage of Ryanaさん(http://svryana.com/Blog/?p=494)からお借りしました。

2017/08/28
(2019/02/06 大幅加筆訂正)

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