アルミ製のマストやブームに、ステンレスリベットを使って部品を取り付けると、穴のあたりが白い粉をふいてボロボロになってくる。一般的に電蝕と言われているが、専門的には、あれは、ガルバニック腐食(異種金属接触腐食)と呼ぶのが正しいそうだ。
何故そういうことが起こるかと言うと、電解液(例えば塩水)に種類の違う金属を漬けると、イオン化しやすい方の金属からイオン化しにくい方の金属に電子が移動してしまうために、イオン化しやすい方の金属側に電解液中の酸素イオンが反応して酸化する(つまり錆びる)からだ。
だから、護りたい金属よりももっとイオン化しやすい金属を、犠牲電極として設置してやれば、先にそちらが腐食してくれて、護りたい方の金属の腐食を抑えることができる。
しかし、ここで「ちょっと待て!」なのだ。中学校の時に習ったイオン化傾向は、「リッチにかそかまああてにすな…」で、この「あ・あ」のところが紛らわしい訳だが、アルミ>亜鉛になっている。下の電極電位の表(出典は注1)ではアルミは-1.66v、亜鉛は、-0.76v。
おや?セールドライブはアルミだが、亜鉛を犠牲電極に使っているよね。
この順番だとアルミが先に腐食して防蝕亜鉛が護られちゃうんじゃね?
ところが、次の2つの理由でこの順番が実用的には逆転しているらしい。
- ヨットの部品に使われるアルミは、生のアルミではなくて、マグネシウムや銅や亜鉛を含んだ合金になっていること(とはいえ、銅以外はイオン化傾向がアルミより大きいけど???)
- 電極電位は、電解質の種類によって相当違うらしく、海水中で比べると、亜鉛の方がアルミよりもイオン化傾向が高いらしいこと。
というわけで、理屈の方はますますよく解らないけども、防蝕亜鉛を正しく装着してあれば、アルミを護れるということは間違いないようだ。
一方、マストやブームに部品を取り付ける時に使う、モネル合金のリベット。
ヨット乗りの間では、「アルミのスパーにはモネル」は常識になっている。
しかし、これも「待てよ?」なのだ。モネル合金は、ニッケルと銅の合金、因みにステンレスはニッケルと鉄の合金なのだから、これがステンレスよりもアルミに電位差が近い材質だと言われても疑問が残る。
因みに上の表と同じところ(注1)に出ていた海水中の合金の自然電位列では、モネルは-0.08v、つまりステンレスよりさらにイオン化しにくい(つまりアルミを電蝕させやすい)ことになってしまう。
これには実例もあって、過去に215フィートの豪華ヨットの船体外板に、腐食に強いからとモネル合金を採用し、フレームの鉄がガルバニック腐食して船がバラバラになったという古い記事を、ニューヨークタイムズのアーカイブで見つけることができる。(注2)
では、モネルもダメなのかというと、そこがそう単純じゃないところなんだなあ。
上の表(注3)は、リベット屋さんのロブテックスのカタログに載っていたものだが、モネルだけは、他の材質と違って、標準電位の値が-1.5(亜鉛以上)から-0.05(ステンレス以下)までのとんでもない幅になっている。これはひょっとすると、同じモネル合金でも材料比によって、アルミに害が少ないものから、ステンレス並みに電蝕を引き起こすものまであるという意味ではないのか?
もしそういう事ならば、
モネルなら大丈夫という言葉を鵜呑みにしないで、信頼できるヨット部品の専門店で買ったモネルリベットを使い(注4)、念の為にテフジェルなどで絶縁することを試みるべきだ。
ヨットの専用部材は高価なので、ついつい汎用品で代用し勝ちだが、これだけは気を付けたいと思う。ここでケチってマストを壊しちゃったらどう考えても元が取れないから。
(注1)表の出典:
佐藤幸弘「金属材料の腐食とその防止」大阪府立産業技術総合研究所報告 No. 10, 1997
https://orist.jp/content/files/izumi/archive/shohou10/TRI10(1997)36.pdf
(注2)New York Times に載った記事の見出し:
BIG YACHT NOW JUNK AFTER 6 WEEKS’ USE; Sea Call’s Monel Metal-Steel Hull Ruined by Electrolysis, Builders Admit. COSTLY EXPERIMENT FAILS Action of Sea Water Attributed by Metal Makers to Failure to Use Zinc Insulation.
New York Times August 12, 1915, Thursday
(注3)表の出典
ロブテックスカタログ Fasteners and Industrilal Tools p47
https://www.lobtex.co.jp/Portals/0/db/catarogue/ribetto.pdf
(注4)宣伝するわけじゃないけど、ゆうこうマリンさんでSelden Mastの純正のリベットを売ってます。
コメント
本日は、ご挨拶させていただき有難うございました。いつもながら鋭い考察と分かりやすい解説、こちらのブログは常に熟読させていただいております。
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恐れ入ります。PPPこそ私の原点です。