ダメ船長の典型パターン

大型商業帆船の乗組員が自身で書いた航海記は意外に少ないが、百年の時を超えて現代に読み継がれている偉大な作品が二つある。

その一つは、”Two Years before the mast”(邦題 帆船航海記)。これは、R. H. デーナー氏が、大学を中退して2年間(後にハーバードに復学して弁護士)、米国の商業帆船に一般船員として乗り組んでボストンからケープ・ホーン経由サンフランシスコを往復した航海記。

もう一つは、”SAIL HOO”(邦題 セイル・ホー)。こちらはサー・ジェームズ・ビセット(クイーンメリーやクリーンエリザベスの船長を歴任)が、15歳から20歳までの5年間、見習士官とセカンドメイトとして、英国から主に豪州航路で4回の世界周航航海を経験した時の自伝的航海記だ。

いずれも読み物として非常に面白いだけでなく、18世紀から19世紀初頭、世界の海上貿易を一手に担っていた商業帆船の運用や船上生活が克明に記されていて資料的価値が高い。

これらは、Two Years 〜が米国船であるのに対してSAIL HOOは英国船、描かれている時期も前者が1834年から1836年(黒船が浦賀に来航する前!)に対して後者が1898年から1904年とずいぶん違うのだが、にもかかわらず幾つかの共通点がある。

まず、帆船の艤装と運用が、時代が60年も離れているのに、ほとんど変わっていないということだ。これは19世紀半ばには大型商業帆船の艤装や運用は既に完成の域にあって、その後の改良の余地がほぼ限られていたということなのではないかと思う。
さらに、2直2交代の4時間ワッチで24時間を回す過酷な労働環境、塩漬け肉とビスケットだけの単調な食事なども共通だ。

しかし、何と言っても、2つの作品に共通して出てくる、いわゆるダメ船長の行動パターンが瓜二つであるところが面白い。

  • ダメ船長は、乗組員を恐怖でマネジメントしようとし、口ごたえどころか、質問したという理由で鞭打ち刑にするなど横暴を尽くす。結果、船内には不満と怠慢が充満し、ひいては船の安全運行に妨げが出る。
  • ダメ船長は、功を焦ったり見栄を張ったりする結果、オーバーキャンバス(帆の張りすぎ)になり、結局大トラブルになる。

これらは、お決まりになっている。
実はそういう船長は、後世に出るフィクション作品、例えばジャック・ロンドンの「海の狼」やジョン・メイスフィールドの「ニワトリ号一番のり」などにも登場するので、当時のダメ船長の典型パターンであったのだろう。

それにしても、それから100年以上も経って、現代のダメ経営者の行動パターンがそっくりなのは笑ってしまう。例えば、社員に過大なノルマを課してコンプライアンス違反を誘発したり、人を大事にしないことで、有能な社員が次々離職してしまうなどが後を絶たない。むしろ、そちらが本来の人間の性で、人の上に立つならば、よほど自分を律するように心がけなければならないという事にも思える。そういえば、ヨットの場合でも思い当たるケースがあるような…(以下略)

うちの船の場合、幸いクルーはいないので、乗組員のマネージメントの問題はないが、オーバーキャンバスにだけは気をつけようと思う。

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