レーダーリフレクターについて考える

【結論】

  1. 普通の大きさのヨット(100ft以上でもない限り)に積めるサイズで、ISOの最新基準(8729-1)を充足するレーダーリフレクターは存在しない(アクティブ型は除く)。
  2. 国交省は小型船舶検査基準(船検に通る条件)でこれに代わる基準を定めているが、ヨットがヒールすることが考慮されておらず、船検に通るからと過信しないほうが良い
  3. World SailingのOffshore Special Regulation(外洋特別規則)の基準が最も現実的と思われる。これに合致する一部の製品は 2. の条件にも適合する
  4. 性能を重視するなら円盤を組み合わせた八面体のリフレクターを、Catch Rain Position(後述)に吊るすべき。但、性能と使い勝手のバランスを考えるなら俵型で妥協する選択も無い訳ではない。しかし、ヨット用として良く売られている直径10センチぐらいの円筒形のリフレクターは、5度傾けただけで、投影面積がほとんど無くなってしまうので、むしろ使わないほうが間違った安心感がなくて良いかも知れない。

【さまざまな基準】

  1. 2007年に発生したFRPヨットとフェリーの衝突死傷事故を受けて、ISOは2010年に150トン以下の小型船が取り付けるべきレーダーリフレクターの技術基準を改定した、その概要は、Xバンドレーダーに対し、水平方向280度以上について、投影面積7.5平方メートルを確保し、うち10度以上途切れることがなく、5度以上途切れる場所が20度以上離れている事。さらに、動力船やカタマランで左右10度、モノハルのヨットについては20度ヒールしてもその条件を満たす事という厳しい条件である。
    これがどれだけ厳しいものかは、文末に参考としてリンク先を示した1995年のWest Marineのテストや、2007年のQinetiQのテスト結果を見ればわかる。ほぼ全てのリフレクターは、垂直状態から一定程度傾けると投影面積が急速に低下すると共に、傾けた状態では測る方向毎に投影面積に大きなばらつきが出てしまうのだ。
  2. このISO8729-1の策定は、日本が主導したと言われているが、間抜けな事に上の理由でこれを船検の基準に採用することができず、船検の基準は次のようになっている。「水平方向360°のうち240°以上にわたってレーダー断面積が2.5㎡以上で、かつ、レーダー断面積が2.5㎡未満となる方向が10°以上連続しないこと」しかも、技術条件からヒールの影響を敢えて外している。その結果、水平方向にはめっぽう強いが、ヒールすると弱い俵型のリフレクターが、船検合格品1号として認定されることになった。
  3. 次にWSの外洋特別規則をみる。WSもISOが改定された後何年かは、ヨットに利用可能なリフレクターが皆無という現実のなかで、設置を努力規定にするなどの対応をしていたが、2020-21の4.10を見ると、極めてすっきりと、i) 円盤を組み合わせた八面体では直径12インチ(30センチ)以上、ii) ひし形の正八面体では差し渡し16インチ(40センチ)以上のもの、iii) それ以外では、20度ヒールした状態で、360度にわたって投影面積2平方メートル以上のもの と規定している。要するに、「完璧でなくても、過去のテストなどで一番マシなものを2つ挙げるからそれを使え、それ以外でもより厳しい基準を満たすのならそれでも良い」と言っている訳だ。なお、円盤を組み合わせた正八面体のものでは、2種類ほどJCIの認定取得済(桜マーク)のものがある。

【実際の運用】

  1. WSが念頭に置いているのが、Davis Echomaster (320mm diameter)とPlastimo 16” Octahedral (300 x 300 x 415mm)であることは容易に想像がつく。しかし、ヨットの上で、4m以上の高さに吊れるところといえば、マスト(又はスプレッダー)しかない。後者は大きく、角張っていて、あんなものをスプレッダーから吊るしたらセールが痛んでしまう。Davis製もかなりマシとはいえ同じようなものだ(以下、円盤を組み合わせた八面体のものを”Davis型”と呼ぶ)
  2. ところで、JCIの認定を取っている国際化工のKNR-2という機種は、Davis型で、プラスチックとアルミ箔で出来ている。この安っぽい造りで実売2万円前後は、amazonのレビューにぼったくりレベルと書かれるのも頷けるが、安っぽかろうが何だろうが、セールを破られるよりはマシだろう。また同じくJCI認定のトーテックス T-RF08-C-245-12もプラスチックでできた俵型で、その形状から、垂直に設置した場合の水平方向の性能は高そうだが、ヒールした場合の性能はかなり下がることを覚悟すべきだ。ただ、後述するが、それでもこの機種を選ぶという選択は無いとは言えない。
  3. Davis型を吊る場合、最初についている吊り金具の位置(円盤の交点)で吊るのはヨットには得策でない。全くヒールが無い状態ならそれが一番効率的だが、ヒールもローリングもするし、風で吹き流されて傾くことも考えるべき。そうすると、最も全周に亘って性能の変化が少ないのは、Catch Rain Position(上の図)という八面体の中心部から吊るした時のポジションだ。ヒールに最も強いのはDouble Catch Rainというポジションだが、これは設置角度を固定する必要があり、これもヨットでは現実的でない
  4. ヒールに弱い俵型だが、一般に直径はDaivis型より細く設置しやすい。とりわけEchomaxの230iという機種は塩ビ製の浮袋の中に反射板を入れた構造で、セールを痛める心配が無い。但、WSの条件は満たさない。桜マークはないが、そちらの性能は満たすはずだ(意味ないけど)。
    ヒールしている時は投影面積が相当下がっている(15度のヒールで0.65平方メートル以上の投影面積を確保できる範囲が200度程度)ことを自覚しつつ、自己責任で使う事はあり得ると思う。セールが痛むのがいやで使わないというより余程意味があるだろう。
  5. 最後に、製品名は敢えて言わないが、ヨット用と称して売られている直径10センチ程度のプラスチック製の筒型リフレクター。これは、QinetiQのテストでは、5度以上のヒールで0.65平方メートル以上の投影面積を確保できる角度がほぼ消滅した。これでは無い方が頼らない分だけマシだろう。敢えて言えば、左右シュラウドのスプレッダーの下(V1)、もう一つ上(V2)、バックステーなどに5つ、6つも取り付ければ、それぞれ傾きが違うのでどれかが垂直に近くなって反射するのではないかというアイディアはありそうだが、これは一度誰かが実際に設置して実験してみてほしい。

自艇は、船検用に小型の正八面体(船が古いので旧基準)を積むと共に、ヒール時の性能低下は覚悟の上で、セールにやさしいEchomax 230i を使っている。ただ、霧で何にも見えない時などを想定すると、プラスチックのDavis型を買うか、自作してみる事も検討してみたいと思う。

参考資料:

【West Marineのテスト 1995】http://newcontent.westmarine.com/content/documents/pdfs/WestAdvisor/Radar-Reflector-Tests-1995.pdf

【QinetiQの2007年のテスト】
https://www.ussailing.org/wp-content/uploads/2018/03/2007-Radar-Reflector-Test.pdf

【船検の基準】
https://jci.go.jp/topics/pdf/topi_h221004.pdf

コメント

  1. だぼ より:

    いつも楽しく読んでおります、ありがとうございます、応急にポリバケツにアルミホイルグシャグシャに入れてスプレッダーに下げると最高という噂が有るのですが、本当でしょうか?

  2. Koji より:

    >>1
    バケツの大きさと同じ大きさには写ると思うんですが、リフレクターの機能は実際の大きさ以上に相手のレーダーに大きく写るところだと思うので…

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