突然の浸水で少し慌てたが、無事解決したので顛末を書いておきます。
発端は、ある日、船に行くとビルジが底から10センチあまりも溜まっていた事。舐めてみるとどうも塩っぱい(けど、海の水よりは塩分が薄いような気もするので良くわからない)。
汲み出してみるとバケツに10杯以上あった。
そんな量のビルジ見たこともなかったので、こりゃまずいぜっていうので、床板を全部剥いで、まずはスルハルの点検。ヘッドに3つと、シンクの排水、エアコンの取水、エンジンの冷却水が各1つで、合計6つ。いずれも漏れも外観上の問題もなし。
対水速度計と測深器。近くにおいたスポンジがカチカチに乾いている。これはシロ。
エンジンの排気系(冷却水)。エンジンを掛けて、ミキシングエルボーからウォーターロック、船尾の排気まで追うが、漏れも漏れ跡もなし。
そこで、船底をじーっと睨んでいると…こういうところからじわーっと出てくる。
これ、まさかキールに穴が空いているんじゃ無いよね?
この時点でパニクっているので、以前から存じ上げているヨットデザイナーの大橋且典さんに(畏れ多いことながら)、写真、ビデオなどつけてメールでご相談。何とその日のうちにお電話を下さり、「そういう深刻な状況じゃないように思うけど、現物を見ないと結論は出せないので在阪の専門家を紹介してあげる」と、135イーストご出身で、現在は独立されている蔵田さんをご紹介下さった。
蔵田さんは、わざわざ訪船して詳しく診て下さり、構造的にキール部分の分厚い積層を超えて浸水してくるようなケースはまず考えられず、万一そういうところにダメージがあれば、どこかに積層の割れや剥がれのような痕跡があるはずだが、そんなものは無い。慌てる必要は無いと思うので、可能性のある場所を一つづつ潰しながら、毎日ビルジがどのぐらい溜まるかしばらく観察を続け、それから対策を考えましょうとのアドバイスを頂いた。
安易に結論を出さず、ステップバイステップで原因を探っていきましょうというアプローチは、流石は経験豊富なプロ。良いお医者さんみたいだなあと感じた次第。
で、その第一弾は蔵田さんが見つけてくれた、コックピットのスカッパーの貫通金具とホース。これは相当痛んでいる。20年替えてないと思う。
そこで、雨の前の日にコックピットにバスクリンを撒いて帰り、翌日ビルジを確認する作戦に。
これで翌日ビルジがバスクリン色だったら、こいつが犯人確定。良いアイディアだと思ったのだけど、残念ながら浸水箇所はここではなかったようだ(いずれにしても、配管は交換することにしたけど)。というのは、結構な雨が降ったのにビルジ自体が全く増えていない。
この次にはスルーデッキのマストからの浸水を確かめるつもりだったのだけど、それもこの状態では可能性が薄い(少しは入ってくるとしても、バケツ10杯も溜まる可能性は低い)
ここで、元に戻って落ち着いて考えてみると、最初のバケツ10杯の後は、数日間毎日バケツ1杯づつ、それもだんだん減ってきて、その後はあまり増えていない。つまり、浸水(または雨漏り)したのは、最初の一回だけで、後の数杯は船内のどこかに残っていたものが徐々に出てきただけなんじゃないか?
ということは、バケツ10杯も溜まるような大きな事象が必ずある筈で、それなら、その事象が起こるまで家に帰らないつもりで、しばらく船に立て籠って観察してやろうと覚悟を決めた。
そして実際に立て籠もり開始から2日後、犯人は意外に簡単に見つかった。エアコンだ!!!
立て籠もり初日、昼間暑かったので、エアコンは全開。その間ビルジは全く増えず。
翌朝、朝起きると、ここのところ増えてなかったビルジがバケツに2杯。え?8時間でバケツ2杯?
そこで、ふとエアコンの結露水を溜めるパンをみると満水になっている(運転中は自動排出される)。舐めてみると塩っぱい。結露水は清水のはずだから、これは外から入ってきた海水だ。
そういえば、寝る前にエアコンは切ったが、冷却水バルブは開けっぱなしだった。
つまり、エアコンを切った後、冷却水バルブをすぐに閉めないと、サイフォン効果で海水を引き込んでしまうようなのだ。確かにエアコンの設置位置は喫水よりわずかに下だ。
確認のため、冷却水バルブを閉めて24時間放置後に観察してみる。ビルジは全く増えない。
次は開けてみる。しばらく観察していたが、開けただけでは入ってこない。しかし、エアコンを10分ほど運転してから止めてみると、ちょっとづつ結露水のパンに水が増えてくるではないか。しかも塩っぱい。
ついに見つけたぞ。「犯人はお前だ!」
あかねのエアコンは海水による水冷式で、熱交換器からの結露水は、一旦エアコン下の結露水受けに溜まり、それを冷却水排出管(排出口は喫水より上)の途中につけたベンチュリー管で吸い出して排出するようになっている。
その結露水排出システムから、なんらかの理由で海水が逆流したということだ。
当初の10杯はそこから浸水、その後は取水バルブが閉まっていたので、新たな浸水はなし。そして今回、夜バルブを開けっぱなしで寝たのでまた浸水したという事。
ただ、これまでもエアコンのバルブの閉め忘れなんて何度もあったが、浸水など無かった。
そこで、さらに詳しく調べた結果、今回の浸水にはもう一つの大きな原因があり、結露水排出機構の逆流防止弁がバカになっていたことが判明した。
それにしても、5mmの細いチューブの途中に付いている小さな逆流防止弁が一つ壊れただけで、船が沈む危機に陥ってしまうとは驚きだ。部品は早速交換するとして、今後は、「エアコンを切ったら直ちにバルブ閉止」を徹底する事にしなければならないと肝に銘じた。
あまりに単純な原因で、大騒ぎをして周囲の皆さんには大変ご心配をおかけいたしました。この場をお借りしてお礼とお詫びを申し上げます。
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