KAZI誌が11月号でアンカーの性能テストをやっていた(https://www.kazi.co.jp/marine/kazi/2023/kz202311.html)。
内容的にはいささか物足りなかったけれど、こういうのをきっかけにして自艇のアンカーについて考えてみる人が増えるならば悪くないと思う。
この種のテストでは、West Marineが2006年にSail Magazineと行ったテストやYachting Worldの2009年のテスト などが有名で、その手法には後述のように若干不十分なところがあるが、総じてコンベンショナルなアンカー(ダンフォース、CQR、ブルース等)に比べて、デルタ以降の近代的アンカー(デルタ、ビューゲル、ロクナ、スペード等)の性能が段違いに向上しているという結論では共通している。
但、これらのテストでは、異なる底質での貫入しやすさと、把駐力のみに焦点が置かれており、反転して引かれた時の挙動や一旦抜けた時の再貫入可能性についてはあまり検討されていない事には注意を要する。
実際、フォートレス(アルミ製のダンフォース型アンカー)は、軽い事と鋭利な先端を持つ広いフルークの形状から、この種の試験手法では極めて有利になり、異常と思われるほど高い評価値を得ているが、基本的にはダンフォース型のアンカーだから、横から引かれるとすっぽ抜けやすく、一度抜けたら二度と再貫入することはない。軽くて強いが脆いアンカーだということは、よく理解した上で利用すべきだと思う。(なお、Practical Boat Ownerの2002年のテストでは直角方向から引かれた時の挙動を調査しているので参考にされたい)
さて、それでは皆さんはどういうアンカーを使っておられるのだろう?
少し古いが、In the pontoon bridge さんが、2005年に新西(多分)で、バウに設置されているアンカーの種類を数えておられた(https://karano.exblog.jp/413579/ 及びhttps://karano.exblog.jp/424684/)。
それによると、220隻中61隻(28%)がバウにアンカーを設置しており、その採用比率は、ダンフォース 22%、CQRとデルタ 36%、ブルース 42% であったとの事。
CQRとデルタが分けられていないが、コンベンショナルなアンカーの比率は、少なくとも66%以上ある。日本ではダンフォース神話が根強いものと思っていたが、それほどでもなかったのと、ブルースが意外に多いんだなあという印象だ。
では、2023年現在の様子はどうだろう。新西に潜り込んで数えてみたいのはやまやまだが、不審者として通報されてしまってはまずいので、船の数は少ないがホームポートの須磨で数えてみた。
結果は、海上係留されていたセールボート78艇中、バウにアンカーを設置していたのは17艇(22%)のみで、その内訳は、ダンフォース 3(18%)、CQR 5(29%)、ブルース 3(18%)、デルタ 5(29%)、スペード 1(6%)であった。
つまり、コンベンショナルアンカーの比率は65%で2005年当時の新西とあまり変わっていない。

とはいえ、わが須磨ヨットハーバーは、庶民的な市民ハーバーだから小型艇が多いし、古い船を大事に乗っておられる方も多い。新西やYBMで調査すれば、かなり違った結果になるかも知れない。(例えば、新艇の比率が高ければ、デルタの比率は高くなる。というのは、ベネトウ、デュフォー、 ハンゼ、 ムーディー などのプロダクション艇は、現在標準装備でデルタを付けているし、ホルベルグラッシーも最近はCQRではなくてデルタを載せているようだ)
まあ、現在お使いのアンカーが、使い慣れたもので信頼を寄せておられるなら、新しいものに飛びつくのは却って危ないというケースもあるだろうし、無闇に換装を勧めるものではないが、CQRが意外に横方向に振られるのに弱いことや、ブルースが硬い砂でほとんど貫入しないこと、ダンフォースが抜けたら最後、全く無抵抗で滑ることなどの特性は理解しておいた方が良いのだろうと思う。
【23年11月 YBMで調査を敢行】
お友達の助けを借りて、YBMで調査を敢行した。
調査したのは、9mから11mぐらいの船が係留されているセンターピアー。10月26日当日、1丁目から6丁目まで、当日係留されていたセールボートは、合計143艇、そのうちアンカーをバウに設置していたのは、85艇(59%)、内訳は、ダンフォース 7 (8%)、CQR 16 (19%)、ブルース 22 (26%)、デルタ 34 (40%)、ブリタニー 5 (6%)、マンタス 1 (1%)。
2005年の新西のデータでは、CQRとデルタが分かれていないが、その合計で36%、今回のYBMでは、それが59%に急増。今やCQRは、ほとんど手に入らないので、増えた分はデルタと見て間違いなかろう。
一方、ブルースは、42%から26%に減少。
やはり、新艇のほとんどがデルタを標準装備してくる影響が高いのではないかと思う。あと、ブリタニー(またはFOB)が5本もあったのは驚き。標準装備にしている特定の造船所があるのかも知れない。
因みにデルタ以外のニュージェネレーションはマンタスが一本のみ(元のAdagioさん?)であった。
これを見ると、ごく一部の人を除いて、ほとんどの人は船を購入したときに付いていたアンカーをそのまま載せている感じ。あと、船の大きさに比べてちょっと小さすぎないかなあと思われるアンカーが結構多かった。少なくともクルージングに出る予定のある船は、アンカーにも少し気を使ったほうが良いんじゃないかなあと思ったが、まあそれは余計なお世話というものだろう。
コメント
バウに付いているものを数えるからダンフォースが少なく見えるだけで、アンカーウェルに収納されている物も数えたら、随分また結果も違うかも。
収納してる人で、スペース節約のためにダンフォースにせざるを得ない人も多いはず(私がそれ)。
もっとも、それを一つ一つ勝手に開けて見てたら、それこそ不審者ですが。
まあそうなんでしょうね。それでもCQRやブルースからデルタ以降への変化がある程度は出ると思ったんですけどね。
こんにちは
フォートレスを使ってます。横90度方向に引くと抜けやすくて二度と刺さらないということですが、仮に抜けてもアンカー投入直後の状態に戻るだけのような気がするのですが・・・。
90度に引っ張られて抜けた後と投入直後ではどのような条件の違いが発生するのでしょうか?
アルミで軽いのでドボーンと落とすとひらひらとデタラメな方向に泳いで落ちていきます。チェーンが先に沈んでいくこともあり、絡まないようにゆっくり沈めてます。
90度横に引っ張った経験がないのでなんとも実感がわかないのですが、どういう状態になってるんでしょうか?
抜けた後、走錨するパターンには2つあります。まず、90度の方向から引っ張られて抜けるような時は、一定のスピードで動き出してしまっていることが多く、ダンフォース型のアンカーはフルークが軽いという事もあると思うのですが、一旦動き出すとイカみたいに海中を泳いで全く海底を掻かないんです。もし重くて長いチェーンを付けられれば、いくらかは改善すると思います。次に、これは事故みたいなものですが、フルークとシャンクの間に小石や木の切れ端が挟まることがあって、そうなってしまうと、フルークは裏側に返りませんから、これも一旦抜けると、とめどなく滑ります。後者は、事故とは言いながら、意外にもしばしば起こる現象で、私も経験があります。
なるほどなるほど。抜けるほどの力が加わっているとするとスピードもそれなりに出るって事なんですね。詳しい解説ありがとうございました。
今後そういう状況になったら気をつけたいと思います。