【まとめ】ステンレスエルボー顛末記

約一年前に、ボルボMD2030Dのミキシングエルボーをサードパーティーのステンレス製に更新した。その後のバタバタの様子は、都度時系列的にブログにアップしてきたが、記事がばらばらで読み難いので、このへんで顛末記として一本にまとめておくことにした。

【エルボーをステンレスにした理由】
2015年、船を買った時に旧オーナーは3年前にミキシングエルボーを交換したと言っていた。

これは2016年。かなり逝っちゃっているように見えるが、業者さんの話ではまださほど酷い状況ではなく、綺麗に酸洗いしておきましたからあと2-3年は大丈夫でしょうとの事だった。
それから2年。いつ寿命が来るかと思いながら乗るのは精神的に良くないので、思い切ってサードパーティー製のステンレスエルボーに更新することにした。オーストラリア製でお値段は輸送費含めて63000円。

【電解腐食の問題】
ステンレスのエルボーは最近はヤンマーも採用しているようだが、2種類あり、ステンレスのパイプに鉄のフランジを溶接したものと、精密鋳造してフランジまで全てステンレス製のものとがある。前者はどうしてもフランジ根本の溶接部分にピンホールが開きやすい。一方後者は、ステンレスと鉄の電位の違いから、エンジンブロックを電解腐食させる可能性があると言う指摘を受けた。
僕が買ったのは後者。買ってしまってから、電解腐食の可能性につき、製造者に何度もメールを入れたがなしのつぶて。
やむなくいろいろ文献を当たってみると、要するに絶縁できれば良いらしい。電気さえ流れなければ電解腐食なんてしない理屈だ。そこで、エンジンのエキマニとエルボーの間には絶縁のガスケット、ボルトには絶縁スリーブ、ワッシャーにも絶縁ワッシャーを使って止め付けることにした。

下の左端は純正のガスケット。真ん中がPTFEシートから切り出したもの。右端はPTFEを主体にしたバルフロンというガスケット。結果的にはバルフロンの方がマシだったのかも知れないが、カタログ上では最高温度がPTFEシートより低かったので、悩んだ末に、PTFEシートと純正との2枚重ねを採用。

なお、絶縁スリーブをいれるためにはステンレスのエルボーの取付穴を10mmにボアアップする必要がある。これは自分のような素人には厳しいと思われたので知り合いのプロにお願いした。
さらに面圧を適正に保つためにもトルク管理が重要だよね。ちょっと高価だが…いいや買っちゃえでデジタルトルクレンチも購入。

【ワッシャーが焦げた】
エルボー交換は2018年3月、ガスケットは、純正のガスケットが電気を通すので、これに薄めのPTFEシートをガスケットに切り出して2枚重ねて使用、絶縁スリーブはPTFE、絶縁ワッシャーを使い、トルクは規定の22KNで締め付けた。
これで一旦はうまく行ったかに見えたのだが、翌週、少しハードな運転試験をしたところ、フランジのあたりから黒い煙を発見。外してみるとこの通り。FRPのワッシャーが焦げていた。

このワッシャー、後で知ったのだが耐熱温度は140度。これは選択ミスで反省。
そこで、今度はワッシャーをRENY(ガラス繊維強化ポリアミド)に交換。今度は耐熱234度。これなら大丈夫なんじゃね?

ただ、ちょっと気になったのは、試運転を終わるたびに少し緩みが出て、毎回締め増しが必要となったこと。まあそれも何度か試運転する間に一応落ち着いてきた(と思った)

【みんな溶ける】
この状態でゴールデンウィークのロングクルージングに突入。途中まで何事もなかったのだが…
関門海峡の入り口でエンジンの音が変わったような気がした。念のためエンジンルームを開けてみると。エンジンルームから真っ黒な煙が。
火事かと思って肝が冷えたが、よく見ると前回と同じフランジから排気漏れ。しかし場所は早鞆の瀬戸、関門海峡大橋の真下だ。
こんなところで船を止めるわけにいかないから、回転を落としつつエンジンルームのブロワーをフル回転、だましだまし下関港に入港した。
落ち着いたところで、エルボーを触ってみるとぐらぐら、ナットは手でまわるぐらいの状態。RENYのワッシャーが完全に溶けてなくなってしまい、緩んで面圧が不足してしまったのだろう(慌てていたので写真はなし)。
その時は、ワッシャーを鉄製に交換、そのまましっかり締付け直して続航。絶縁はできていない状態だが、一週間ぐらいは問題なかろう。その後クルージング中は排気のトラブルはなし。

【抜本的解決へ】
原因は次のいずれか。自然吸気のディーゼルの排気温度は150-200度と聞いていたが、本当はそれよりかなり高いのか、もう一つは、耐熱温度よりもかなり低い温度でクリープが起こってしまいそのせいで面圧が不足してしまうのかだ。両方かも知れない。
ホームポートに帰港後エルボーを外してみると、やっぱりね。

ガスケットが半分なくなっている。PTFEは燃えたりはしないから、クリープした状態でフランジをぎりぎり締めこんだものだから、へたって千切れて、なくなってしまったのだろう。

こうなったら、半分やけくそ、金に糸目をつけずに耐熱部材を探す。ガスケットには、Mr. Gasket Co.というところから出ている、車・バイクのエキゾースト専用の耐熱ガスケットシートからガスケットを切り出して使用、今度は耐熱650度。これなら文句なかろう。
さらに、悩みのタネの絶縁ワッシャーは、耐熱1000度のセラミックワッシャーじゃ!
RENYのワッシャーが一枚80円で高いなあと思ったが、このセラミックワッシャーは一枚420円。しかも最低注文数は10枚。この写真のワッシャー一袋で4,200円也!!!!!

まあ、これで当面は大丈夫だろうと思うが、このままでは悔しいので、徹底的にモニターできる態勢を整えた。
もともと冷却水水温計は設置済だが、これに加えて排気温度を知りたい。ただ、エキマニに穴を開けたりするのはちょっと素人にはチャレンジングに過ぎるので、エルボーフランジ付根の温度を熱電対温度計で測って表示できるようにした。
最大3200回転のオーバーパワー状態(因みに最大回転数は3500回転、通常は80% の2800回転を巡行運転としている)ではフランジ外側の温度が200℃近くまで上がる。フランジ外側の温度が200度なら内側は250度(RENYの耐熱温度)ぐらいあっても不思議はない気がする。

【近況 2020年3月現在】
交換してから丸1年、ひと通り落ち着いてから約10ヶ月になるが、夏のクルージングも含めてトラブルもなくここまで来ている。念のためトルクレンチで時々締付具合を確認しているが緩みはない。絶縁状態もテスターで測ってみて問題はなさそうだ。
あと1年して丸2年になったら、一度外して点検してみよう。ステンレスでもカーボンが詰まるのは仕方ないが、鋳鉄製のように内部が錆びてぼろぼろになっていることはないと信じたい。
楽しみなような怖いような。。。

【さらに追記2022年3月】
セラミックワッシャーは、高温には耐えるがたいへん脆い。エルボーを点検して組み付けた後、必要な面圧を確保しようとしてナットを締め込んだら簡単に割れてしまった。その度に一枚420円ではたまらない。そこで、金属のワッシャーに耐熱塗装をしたら絶縁できるのではないか?と考えた。

耐熱塗料を2度塗りして、オーブンで焼いて固着させて完成。組み付けの結果、絶縁は問題なさそう。
あとは、耐久性だな。時々絶縁を確かめるようにしよう。

【さらにさらに2023年8月】
やはり、塗装だけでは絶縁がもたなかった。超高価なロスナワッシャーで捲土重来。
https://yachtakane.com/archives/37971786-2.html

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