デイセイラーの危険

ヨットが転覆して、SNSでお友達になっている方がご夫婦でお亡くなりになった。
まずは、心よりご冥福をお祈りいたします。

この事故は、家内と2人で乗ることが多い自分としてはとても他人事とは思えない。報道されている内容によれば、どうもレース中の事故で、風速30kt、波1.5mぐらいの海況だったらしい。
さらに、びっくりしたのはこの写真だ(https://tenki.jp/news/cbc/00050E4B.html)。

倒立状態で、完全に安定している。

この船は、横山一郎先生が設計された Actus-17。販売元は、株式会社リブレというところらしい。
最初に思い浮かんだのは、波1.5mやそこらで倒立沈をする船なんて、欠陥商品じゃないのか?ということ。キール脱落があったわけでも、乗員オーバーがあったわけでもなさそうだ。
しかし、設計はレジェンド、横山先生。まさか先生がそんないい加減な設計をする訳がない。

そこで、横山先生の設計事務所のHPでこの艇の紹介を見るとこうなっていた

゙ディンギー感覚でクルーザーなみの安全なセーリング゙がテーマ としてある。
一つ上のR-23(6.6m)には、はっきりクルーザー、一つ下のSailing Spilit(4.3m)にはディンギーと記載されているのに、この艇R-17(4.96m)にだけは、クルーザーともディンギーとも書かれていないのだ。

次に、企画、販売されたとされる株式会社リブレのHPに行くとこういう紹介がされていた(https://www.rivre.co.jp/product/)。

不沈構造、船体重量の30%を占めるバラストキールなどの記述が目立つ。
しかし、説明の別の部分には、「沈の可能性も一般のディンギーに比べるとほとんどありません」としてあり、これは逆に読むと、決して沈しないということではありませんよ。という意味にも取れる。

問題は、設計者や企画・販売者が、どのような性格の船を、どのようなユーザーをターゲットに提供し、また、その意図がユーザーに正しく伝わっていたのかということだと思う。
今の季節に、普通のディンギーに乗ってレースに出るならば、ウェットスーツ(ドライでも良いが)着用が基本だろう。救助艇も用意される筈だ。
一方、普通のクルーザーなら、この程度の海況で180度の完沈をしてその状態で安定することなど無い前提で考えるから、服装もそれに見合ったものになる。

この日、ご夫婦に何が起こったのかはまだ明らかにされておらず、今後の事故原因の究明に待つしかないが、少なくともお二人に、自艇が倒立状態から復元できず、海に長時間放り出されるという事態は予測できなかったのではないか?また、果たしてそのような可能性について、正しくお二人に伝わっていたのだろうか?

お二人の無念を想うと胸が痛む。せめて、この船はこういう性格の船なのだということがわかっていれば、そんな事にはなり得なかったのだ。
このような悲劇を二度と起こさないように、日本に於いてもEU同様、国内で販売されるヨット全てについて、ISOに基づくヨットのデザインカテゴリー、スタビリティーインデックス(STIX)及び復元力消失角(AVS)の公表を義務付ける措置が不可欠であると強く感じる。

コメント

  1. redsun より:

    さんは2019年にラグナで中古艇を購入し、本人ノブログによるとスタートしています。
    事故の時私は1マイル程度の自分のバースにいました。朝は風は無く穏やかで
    事故がおきた時間も差ほど吹いてはいませんが、ものすごいブローが入る状態で不安定となっていました。「キールボートが横倒しから復帰せずに180度仰向けに?・・・??疑問符がつくばかりです。
    海陽ハーバー職員に聞いた話では、第1発見はディンギ艇の監視ゴムボート、ボートから海陽に連絡があり現場に行った。セールは装着されていた。アンカーロープが引かれていたがアンカーリングでなく転覆の影響で流れたようでアンカーを引きながら流れていた。付近に人影はなく118通報したそうです。船検Noからラグナマリーナ所属艇であることを保安署が確認したそうです。
    ラグナマリーナに聞く話でも目撃情報もなく不明とのこと。男性遺体にパンチング等の傷の有無を聞いたが無かったそうです。
    私の推測でしかありませんが何かのはずみでヘルムスマンが落水、ヨットは進んでしまい、かなり離れてしまった。残った奥さんは制御できずヨットが横倒し、さらに・・・・・春ですが水温はまだまだ冷たいです。長時間の冷水に耐えられなかったでは」とあり、レース中ではなく、三河大島の東側の暗礁帯付近で、原因不明で不思議に思います。
    ご冥福をお祈りいたします

  2. Koji より:

    >>1
    本当に残念な事故です。そして明日は我が身。余程気をつけて船を出すようにします。

  3. Pepe より:

    「アンカーを引きながら」というのが気になります。アンカー出せるような深さの場所じゃないかなあと。とすると、アクタスにはアンカーに蓋のある格納スペースがなくそこらに置きっぱなしな(どこにも結んでいない)ので、置き場所が悪く沈したときに飛びだし、おそらくクルーやブームなどに引っ掛かったまま飛び出して他のものと合わせてキールより重いおもりになってしまって復元できなかった(クルーは船内で発見されています)んだろうなと思っていました。いずれにせよ、ちょっと訳のわからない状況なので同じ船に乗る身としてずっと心にひっかかっています。この事故以来、アンカーを降ろして出向しています(法令違反ではありません)。

  4. Koji より:

    >>3
    コメントありがとうございます。同型艇にお乗りなのですね。重要なのは乗り手が船の性格をしっかり把握している事だと思います。別にディンギー(当然、沈もする)に乗る事自体が危険な訳でも何でもないですものね。ところでこの船、復元力喪失角は体感的にどのあたりですか?例えば、マストがぺったり海面に着くまで沈したときに(だいたい100度ぐらい)放っておいても起きてきますか?

  5. Pepe より:

    そこまで倒したことないです。この事件以来、いろんなことが気になっているので、その他にも自分の体重でどれぐらいまで風を受けられるんだろうとか、試してみたいことは山程あるんですけれど、こういうのってディンギーとちがって個人ではできないんですよねえ。

  6. Koji より:

    >>5
    湾内でアンカーを打ち、テンダーを水船にしてウインチで巻き上げるなんていう裏技もあるのですが(野本先生が船底掃除をするのにやっているのを見たことがある)、まあ危ないから止めといた方が良いですね。それよりは、メーカー(又は横山先生の事務所)に、設計上のAVS(復元力喪失角)だけは、問い合わせておいた方が良いです。この事故の後ですから、同型船のオーナーだと告げれば、親切に対応してくれると思います。

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