”Complete Anchoring Handbook”(https://tinyurl.com/3h6ytekd)は、アンカーの効く原理や底質への理解、アンカーの選択、それにアンカリングテクニックまでを網羅していてお勧め。
その中で、アンカーロード(アンカーチェーンやアンカーロープの総称)に関して気になる記述を見つけた。
それは、「オールチェーンのアンカーロードはお勧めしない。最強はチェーンとナイロンロープのハイブリッドである。」というもので、船体長の2倍ぐらいのチェーンとそれに直接スプライスされたナイロンのエイトロープを使うことが提唱されている。
理由は、オールチェーンでは、波や強いブローなどで、船体にもアンカーにも急激な力がかかり危険であるという事だ。まあそこは常識。
スナッバー(チェーンフックに5−6mのロープがついたもので、チェーン側をフックで、船体側をロープでクリートに固定する)を使用すれば、ハイブリッドと同様、急激な力がかかるリスクを一定程度緩和できるが、それでも次のような欠点があるとする。
- オールチェーンでは重くなり、バウのロッカーに入れると船の性能にも影響する。
- ある程度長いスナッバーが必要になるが、これを設置するのは荒天下では容易な仕事ではない
- 船が振れ回ってスナッバーがチェーンともつれる可能性があり、そうなると揚錨が大変だ
まあ、その通りだとは思う。
また、チェーンのカテナリー(重さによるたるみの効果)は、強風下では期待できないことが知られているので、(過去記事:カテナリーは信用するな!)、わざわざ重いチェーンを大量にバウのチェーンロッカーに入れておく意味はあるのか?というのもおっしゃる通りだ。
ただ、アンカーは大嵐の時にだけ打つわけじゃない。むしろ普通のお天気の時に使う機会が多いわけだから、ウインドラスを使ってボタンひとつで上げ下げでき(ハイブリッドロードに対応できる電動ウインドラスは、セールボート用としては市場に見当たらない)、通常はカテナリーのおかげで振れ回りも少ない等々、利点が多々あるわけだから、そこはまあ好みの問題ということで良いのではなかろうか?
むしろ問題は、スナッバーに、どんな素材と太さのロープを何メーターぐらい繋ぐかということだろうと思う。
ところで、ロープは荷重がかかった時にどのぐらい伸びるんだろうか?また、ロープの素材による違いはあるのだろうか?
その点については、東京製綱繊維ロープさんの総合カタログがとても丁寧に情報を出してくださっている。(https://www.fiber-tokyorope.jp/file/file001.pdf)
このグラフはしげしげと眺めていると、まことに含蓄が深い。ポリエステルとナイロンでは、破断強度にさほど違いは無いが(但、湿潤時はナイロンロープの強度がここから約12%落ちることに留意)、ナイロンは、切れる前に50%も伸びること。それに、大きく伸びるのは破断強度の10%ぐらい迄の力がかかった時で(上のグラフでは破断強度の10%の330kgfで引っ張ると長さは20%以上伸びる)、それ以上の力が加わると、伸びるには伸びるが伸び幅は小さくなっていくのがわかる。
つまり、衝撃を和らげる事を目的とするスナッバーには、最大予想荷重の10倍以上の引張強さを持つナイロンロープを使うのが望ましい選択だということになるだろう。一方、ハイブリッドロードのロープ部分が、本当にナイロンでなければならないのかはちょっと疑問だ。ロープが長いぶん伸び代も多いので、ポリエステルでも充分ではないかと思う(全長が30mあれば、10%でも3m!)。ナイロンロープは滑るし、腰がなくて扱いづらいので個人的には嫌いだ。
さて、写真はわが艇のスナッバー。市販のものをそのまま使っている。素材は3つ打ちのナイロンで18mm。ラインの長さは6mあり、左右に振り分けて使う。
東京製綱さんのカタログによると、18mmのナイロン三つ打ちロープの引張強さは61.7kN(6.29Tonf)となっている。現実的にアンカーにかけて良い最大荷重* は良くて500kgfぐらいだろうから、その10倍でも5Tonf、太さはこれで十分だろう。
もっと言えば、スナッバーの場合は左右に振り分けて使うから、かかる荷重はその半分なので、もう2サイズぐらい細くても良さそうだが、摩耗や劣化の可能性を考えれば、そのぐらいの余裕は持っておくべきかも知れない。(* 最大把駐力は、条件によってはもっと高いケースがあり得るが、それを前提にアンカリングする訳にはいかない)
最後に、スナッバーに使うロープの長さだが、上記ハンドブックでは、最低でも10m必要だとしている。アンカーチェーンにダイレクトにかかる力を和らげる効果だけを考えれば長い方が良いのだろうが、実際にはそう長いと使い勝手が悪い。
一つの方法として、スナッバーのライン部分だけ、常用の5mぐらいのものと、荒天用の10mぐらいのものと2つ用意しておくのは良い考えかも知れない。
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