ブルーウォーター・ストーリー

ここまでインパクトの強い航海記は、後にも先にもないだろうと思う。

筆者の片岡佳哉氏は謎に満ちた人物で、あまり積極的に講演活動をされたりもしない方のようだ。大ファンの私としては、一度はお会いして、この初版本にサインを頂きたいと願っているのだが、いまだ果たせていない。

この冒険のことを最初に知ったのは、同氏が2009年にホームページ(http://aomi-sailing.com)を開設された時だ。
現在もホームページは更新が続いているが、当時の過去ログも残されていた(http://aomi-sailing.com/aomi-adventure.html)。

24フィートのセールボートで太平洋を渡り、そこからチリ多島海経由ホーン岬、さらには南極大陸にまで到達して無事に帰ってきたという大冒険。ホームページで記事を最初に拝見した印象は、失礼ながら「よく出来たフィクションだなあ」というもの。

しかし、更新が進むにつれ、「これ、体験しないと書けないよなあ。」「この写真どうやって撮ったんだろう?、本当に行かなきゃ撮れないし…」、「やっぱ、これ実話なんだ!!!」となって、体が震えたのを覚えている。その後、KAZI誌にも連載されるようになったから、ご記憶の方は多いだろう。

それにしても、この本には恐ろしい場面がたくさん出てくる。とりわけ、烈風でベアポールを余儀なくされながら、他に選択肢なく風下にある暗礁地帯を越えて湾内に突っ込んで行くことになる話(「迷い込んだ暗礁地帯」)など、あまりに絶望的で怖くて怖くて夢に見てしまいそうだ。

冒険というのは、事前の周到な準備と、高いレベルの体力・気力・運用術(シーマンシップ)をもってしても、追い込まれる時はそこまで追い込まれるということなのだろう。逆にいうと無事に帰ってきたから航海記が出来たわけで、過去には記録に残らなかった冒険記というものが無数にあるのかも知れないと思うとそれも背筋が寒くなる。

まあ、道楽でするヨットは、安全第一。怖い思いはしなくて良いなら一生したくない。それでは得られないものもあるということなんだろうけど、そこは諦めます。

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