人生いろいろ、ヨットもいろいろ

今回も、前回に引き続いて、boatdesign.net さんの “RYA Stability List ” をグラフ化して眺めてみる。

今回のテーマは、AVS(Angle of Vernishing Stability 復元力消失角)。
まずは、データベースから、LOA(全長)、AVS(上述)、STIX(ISO12217-2によるStability Index)とデザインカテゴリー(同じくISO12217-2による)が全て揃うデータを抽出する。かなり減ってしまうが、159件あった。
これを、LOAを横軸に、AVSを縦軸に取って散布図にすると、次のようになる。

これは全く無相関に見える(よね?)

でも、これをデザインカテゴリーごとに色分けしてみると、何となくトレンドラインが見えて来ませんか?

この右下がりのトレンドラインは、Category-A(外洋適格)が要求する最低AVSと関係がある。

要求AVSのフォーミュラは、

Φv(R) = (130 – 0.002m) but always ≧ 100°
ここで、
 Φv(R)は、Required minimum angle of vanishing  stability、
 m は、乗員を含む全装備重量である。

一般に船の重量(m)は、全長の3乗弱の割合で増えるから、LOAが大きくなると、AVSは少し小さくしても転覆リスクは少ない(と標準化組織の先生達は考えている)という事だろう。
だが、これを実際のボートデザインに当てはめる時には、デザイナーやユーザーの考えが反映して、バリエーションは相当大きくなる。
まあだいたいこんな感じなんだろうなあと思われる分類を書き入れてみた。

もし次に船を造るチャンスがあったら、どのあたりの船にするかなあなんて考えていると楽しい。

ここからはあくまで私見だが、
まず右下に位置する大型化によるスタビリティー面のメリットを居住性に振り向ける作戦。具体的には、カタリナ42、ベネトウ50などが典型。いずれも居住性重視、デザインカテゴリーはA(外洋適格)である。
確かに船を転覆させるモーメントは、復元てこ(GZ距離)x重さだから、大きな船は滅多な事では転覆しないのだろうけれども、150メートルもある貨物船ならともかく、15メーターそこそこのヨットが他よりは転覆し難いというだけで、倒立沈の可能性を棄却してよいものだろうか?野本先生が「ヨットの科学」で行った講演の抄録が、古いOffshore紙に出ているが(*)AVS110度前後の船では、倒立させた波の80%近い高さの波が来てくれないと元へ戻らなくなるという。

次に、AVS180度という、要するに絶対に倒立沈しない船。フィッシャー34、37などのシリーズがこれに当たる。まあ、安心感はあるのだろうけど、そこまで運動性能を犠牲にするのはどうよ?と思う、特に外洋にしか行かないなら良いが、沿岸で風下にショアを抱えて上らない船を走らせるなんて、むしろ転覆リスクよりも怖い気がする。

最後に、小型でもAVSが大きい船、例えばフィッシャー25、バンクーバー28など。これは、ちょっと盲点なのだけど、いずれも4トン台の排水量だから、転びにくいのではなくて、転んでも起き上がるという意味だという事。さらに水線長が短いとピッチングのモーメントも小さいから、乗り心地はかなり犠牲になるのではないだろうか?クラシックスタイルで、街乗りするには素敵だが、外洋へ持ち出すのが適切なのかどうかは判らないなあ。

となると、外洋に行きたいなら、結局はこのトレンドラインのやや上側の中排水量の船で、ご予算が許す限り大きい船という事になろうか?辛坊さんのホルベルグラッシーとか、今は無くなっちゃったけどウエスタリーとかがいいなあ。
など想いつつ、そもそも船を買い替えるご予算なんかないから、あくまで夢想の世界。

(*) 「外洋ヨットと転覆」ヨットの科学勉強会 解説 野本謙作 OFFSHORE244号 1996年2月号 p7-8(https://onbreeze.org/offshore/277_Offshore_244.pdf)

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