エンジン整備の講習に行ってきました

尾道海技学院さんの「マリンメンテナンス講習」は、マリン整備士養成のためのエンジン整備や船体整備のコースの中からディーゼル船内機だけを切り出した3日間の短期コースで、プロを目指すわけではないが自分の船は自分で整備したいとか、仕事の上で少しだけ基礎知識を得ておきたいというような人を対象としたコースだ。

具体的な講習は、座学に1日、残りの2日でヤンマーの3GM-30をピストンまで抜いて分解して組み立て直し、エンジンを掛けるところまで。

素人が3日間ぐらいの講習を受けたぐらいで出来ることは知れているが、エンジンの構造や各部の仕組みを理解できれば、トラブルが発生した場合の問題の切り分けができる可能性がある。そうすれば、業者さんに診てもらうところを特定できるし、もし壊れた部品が特定できれば、その部品だけ取り外して業者さんに持ち込んで修理してもらえるので、工賃は大幅に節約できるだろう。

そこで、今回教えて貰ったことを、忘れないうちに以下に整理しておきたい。

最初に思ったこと
エンジンなんて、船から降ろして架台に載せちまえば、なんでもできるなあって事。どの部品にも手が届くし、強いトルクで締め付けられたボルトを外すのもわけない。逆に言うと、船に載せたままできる整備は限られている。

降ろさないとできない事
ピストンを抜いてする整備は、エンジンを船に載せたままではできない。エンジンの底にあるオイルパンを外して、裏側からコンラッドのネジを外して上に抜くわけだから降ろさないと絶対に無理。つまりシリンダリングの交換やシリンダライナーの研磨などの、いわゆる腰下の整備はできないということ。

降ろさなくてもできる(可能性がある)事
・ バルブカバーを外して、バルブのクリアランスを調整する事(ボルボのマニュアルでは2シーズン毎に実施することになっている)
・ 燃料噴射弁を取り外して清掃(ボルボのマニュアルでは400時間毎)、必要に応じて、噴霧圧力と噴霧状態の試験、ノズルの交換、調整板(Shim)による圧力の調整など(但、ボルボのマニュアルには、取り外したら触らずにそのまま業者へ持ち込めと書いてあって、検査機器も必要だし自分は多分そうすると思う)
・ 燃料噴射ポンプ(高圧ポンプ)のトラブルの場合、取り外して業者に持ち込む事だけはできる。但し、先生から中身は絶対に触ってはいけないと念を押された。そもそもこれが壊れるケースは少ないが、壊れた場合でも中身は1/1000ミリの精度で調整されていて、検査には数千万円もする測定機器が必要だから素人にはまず手に負えないと(こういうのって、結構重要な情報だと思う)
・ コンプレッションゲージで圧縮圧力を測定する事。これが出来ると問題の切り分けが進む。
・ シリンダヘッドを取り外して、燃焼室のカーボンスラッジの除去、吸排気弁スキマ調整、弁すり合わせなど(これも、後2つは素人では難しそう。ただ、そこまでで治るとわかっていれば、ヘッドを外して修理業者に持ち込めば良いし、それではダメでエンジンを降ろしてオーバーホール必至となれば、積み替えも含めた検討になるわけで、そこを理解できた事は大きい)

これらを元に問題切り分けのフローチャートを作ってみた。

整備時期とその判断基準
これが一番知りたかった。講習中いろいろ質問させて貰ったが、結局のところ明確な基準がある訳ではなく、基本的にはメーカーの定める定期点検時期に応じた点検整備を怠らないことが重要だが、それ以上に日々のエンジンとの対話が必要だという事であった。ある意味月並みではあるが、出力が出なくなった、燃費が悪くなった、潤滑油の消費が増えた、排気の色がおかしい、などの現象が出ていないか、日々よく観察して早め早めに手を打つ、必要に応じてテストして問題を切り分けるという事しかないようだ。

講習にかかる費用は、教本代を含めて7万3千円ほど。これに3日分のホテル代がかかるから全部で10万円仕事になるが、一回の修理代を半分にできれば(業者さんが、訪船して外して、持って帰って修理して、再度訪船して取り付けるところを、持ち込み修理にできれば、費用は半分ぐらいになる理屈では?)かなり取り返せると思うし、それ以上に、エンジンをこまめに整備して壊す前に手を打てれば、ライフタイムのメンテナンスコスト全体を削減できるかも知れない。

という訳で、なかなか有意義な講習であったが、教えてもらうと今度はエンジンをバラしてみたくなるよね。自分のエンジンをバラすのは怖いし、友人達は壊されてはたまらないから逃げ回っている。誰かエンジンをバラしてもらいたい人はいませんか?(おらんやろなあ…)

  

  

【おまけ】
ついでにエンジンが全くかからない時のフローチャートも作ったので、備忘のために置いておきます。

コメント

  1. O川 より:

    > エンジンなんて、船から降ろして架台に載せちまえば、なんでもできるなあ
    ↑これに尽きますな。
    私は飛行機のレシプロエンジンで最初にエンジンを学んだので、飛行機に取り付けられたままヘッド外してピストンリングの交換とか、シリンダー内筒を削ってライナーを入れたりとかバルブタイミング調整したりとかが普通のイメージでした(と言うか飛行機からエンジン降ろすと機体が自立出来ない場合が殆どなので、なるべく降ろさなくても良いように作ってある)。
    ところがヨットでは、エンジンを外さないと出来ない事ばかり。
    ウチのなんかオイルフィルターを外すのも細い隙間に手を突っ込んで一苦労。
    完全な箱入り娘ですな。
    電動化が待ち遠しいですわ。

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