マレロン(Marelone™︎)は、FORESPAR社が提供するスルハルフィッティング用の樹脂複合材の登録商標だ(一般には同社のマレロン製の樹脂製品もマレロンと呼ばれている)。船のスルハルは金属製という常識を打ち破り、今やスルハルの部材としてごく一般的なものとなっている。
「プラスチックなんて、弱そうだし、すぐ劣化しそう。船に使うのは気持ちが悪い」という感覚は誰にもあると思うが、樹脂製と言われてもポリバケツを想像してはいけない。プラスチクス(こちらが正式名、プラスチックは俗称)の世界は広大無辺で、且つ日々進化している。大事なのは、金属製か樹脂製かではなく、どんな素材を使ってどういう工法で作られたものかということだ。
そこでマレロンに戻って、FORESPAR社のホームページを覗いてみると、What Marelon is? としてこう書いてある。「マレロンは、優れたマリングレードの製品を作るための、複合強化ポリマーと添加剤を使用した、独自処方のポリマー複合コンパウンドです」(https://www.forespar.com/what-is-marelon.shtml)
要は何言ってんだかわからない。というか、真似されちゃうから言いたく無いって感じよね。比較の対象になるかどうかはわからないけど、ボーイング787に使われるカーボン複合材について、東レは「カーボンファイバーをフェノール樹脂で固めて焼いただけですよ」って簡単に言っちゃう訳だけど、カーボンファイバーの配置から樹脂の選択、焼成技術まで、特許とノウハウの塊なので、真似できるならやってごらん?という態度。それに比べればちょっと残念だな。
また、別のページには、「マレロンの歴史」として、興味深い記事が掲載されている(https://www.forespar.com/marelon-history-1.shtml)。これをみると、製造方法は射出成形であることがわかる。よって樹脂は熱可塑性。また、樹脂の吸湿性と寸法精度の問題に触れた項目があるので、多かれ少なかれ吸湿性。さらに1980年代にはすでに製品が上梓されていたということは、カーボン素材はまだ一般的でなかったはずで、グラスファイバーとの複合材だろう。
これで大体当たりがついたが、最後に決定的な情報を掴まえた。あるマリンサーベイヤーがFORESPAR社のビル・ハンナ副社長(当時)に取材して書いた記事(https://themarinesurveyors.com/marelon-vs-bronze/)。
やっぱりね。マレロンの正体はガラス繊維強化ポリイミド樹脂(ナイロン)のコンパウンド。そしてサプライヤーは DuPont。
元々、DuPontは “Zytel PLUS nyron” (https://bit.ly/3UeZKjk)という、汎用のガラス繊維強化ポリイミド樹脂を商品化しているが、マレロンは、これをベースに舶用に不可欠の紫外線対策等の添加剤を配合した、マリングレードのコンパウンドに違いない。
まあ、だからどうと言うことも無い訳だが、何でできているのかがわかったのでスッキリした。
ところで、むしろ知りたいのは、マレロンのフィッティングは信用できるのか?という事だろう。それは、ABYC(The American Boat & Yacht Council)やUL(Underwriters Laboratories)が認証を出しているという事もさることながら、市場の評価こそが最重要だ。
カタリナヨットが、1980年代前半に最初に採用して以来40年以上、現在のモデルがほぼ出揃った1993年ごろから30年。国内外のヨット・ボート乗りの間から、マレロンのフィッティングの耐久性やメンテナンス性についての不満をほとんど聞かない。いきなりもげて浸水したなんて話も、むしろ金属製のフィッティングではしょっちゅう聞くが、マレロンでは聞いたことがない。自分は、次にスルハルフィッティングを交換することがあれば、迷わずマレロンを選ぶ。
最後に、つい最近聞いた話で、マレロン(FORESPAR)に有力な競争相手が現れたとのこと。TRUDESIGN社という(https://www.trudesign.nz/marine/products)。
ABYCやBVの認証を取っている他、X-Yachtが、FORESPARを差し置いてTRUDESIGNを採用しているというから大したものだ。
マレロンの一人勝ちから、新規参入が現れて切磋琢磨してくれるならありがたいことだ。
ただ、ボクは、今すぐ交換するなら、30年以上の実績のあるマレロンを選ぶかも。性能的に上回るとか、より安いということがあったとしても、リスクが少ないことを優先したいので。
コメント
おお!先週からスルハル金具を交換している私にタイムリーな!
今回私は水より上の排水はTru Design(True)の物に交換中です。
水中の吸水側は何かが当たった時の壊れ方を見て、旧来通りのメタル製を選びましたが。
ぶつかって割れる心配は電食の心配をしなくて良い事とのトレードオフになってしまいますね。ところで、ForesparじゃなくてTruedesignを選ばれたのは、誰か詳しい方のお勧めですか?理由がわかれば参考にさせて下さい。
わ、Tru Design(True)って書いちゃった、(Trueじゃないですぜ)って書こうと思ってたのに。
そうなんです、その辺はトレードオフですね。
私の場合陸置保管故に普段はスルハルは紫外線に曝露しているので、その辺を考えるとやっぱり壊れたらまずいところは金属をチョイスしてしまいますね。
今回Tru Designをチョイスしたのは、前のヨットで排水側を8年間かな?Forespar製のを使用していて問題なかったので、純粋に「こっちも同じかな?」と言う個人的興味ですわ。
値段も誤差範囲でしか違いは無かったです。
ご指摘ありがとうございます。本文だけは修正しました。